小説『さよなら世界の終わり』書評感想
今回は小説『さよなら世界の終わり』を紹介します。佐野徹夜による著作であり、装画はloundrawが担当しています。2020年6月1日に新潮文庫nexから発売されました。
あらすじ
校内放送のCreepを聴きながら、屋上のドアノブで首を吊ってナンバーズの数字を見ようとしていた昼休み、親友の天ヶ瀬が世界を壊す未来を見た。彼の顔を見ると、僕は胸が苦しい。だから、どうしても助けたいと思った――。いじめ、虐待、愛する人の喪失……。死にたいけれども死ねない僕らが、痛みと悲しみを乗り越えて「青春」を終わらせる物語。生きづらさを抱えるすべての人へ。
ポイント
- 異能力
- 不条理
- 青春
異能力
「僕は死にかけると未来を見ることができる」の書き出しで始まる本作は、現代の地方都市を舞台に物語が進みます。語り部である高校生の間中は「死にかけると未来が見える」、同級生の青木は「死にかけると幽霊が見える」、友人の天ヶ瀬は「死にかけると他人を洗脳できる」という異能力を持っています。ただ彼らは特殊な教育施設から逃げ出した時に流れ星の落下に遭遇したこと偶然にも得た能力であり、それを使いたくないけど依存してしまう、満たされない日々を送っていました。
不条理
間中たちは特殊な力を得る前から誰からも愛されず、能力を得てからはさらに世間との溝が広がって意味のない時間を過ごしていました。一方で、クラスメイトから虐められたり、能力を使うために苦痛を味わったりと、理由もなく追い詰められてゆく様子が描かれます。3人が集まっても思いを共有することは叶わず、ただひたすらに陰鬱な時間が流れてゆきます。
青春
間中への虐めが過激になった時、天ヶ瀬が虐め役を自殺させてしまったことを皮切りに、3人のさらなる逃避行劇が始まります。彼らは等身大のたわいない会話を交わしながら海の中に入ってゆき、いよいよ世界との対決に挑んでゆく展開は、かなり遅れて拗れてしまった青春らしさで溢れています。
ネタバレ
間中はあの世に行き、そこで妹のミキや天ヶ瀬と対話する。世界はどうしようもないが、彼にとって青木と天ヶ瀬だけは捨てがたく、死の淵から生還する。後日、3人は集まって誕生日パーティを開き、やがて生きる意味を探し始める。
終わりに
端的にいうと著者の鬱抜けの私小説です。
不条理ものという物語性の排除を考慮しても、展開が追いにくく、それでいて逃げようのない痛みが詰まっていてとても読みにくい内容です。
キャラクターに関しては描写がかなり淡泊ではありますが、会話はウィットに富んでいて、青木や天ヶ瀬の余白の広さがそのキャラクターの内に抱える闇の大きさを象徴していたのがよかったと思います。
ただ青春小説(として読み始めた身の上)としては、分かりやすいカタルシスもなく、ただひたすら凄惨な場面が繰り広げられてゆく中で、ある意味でこの「痛み」こそが青春らしいともいえる『さよなら世界の終わり』です。
- 作者:佐野 徹夜
- 発売日: 2020/05/28
- メディア: 文庫