AYUTANINATUYA

脱サラ・アラサー大学院生。日記と、趣味のゲーム・書籍・漫画などのサブカルを発信してます。

小説『白ゆき姫殺人事件』書評感想

 

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 今回は小説『白ゆき姫殺人事件』を紹介します。湊かなえによる著作であり、2012年7月26日に集英社より単行本が、2014年2月20日に集英社文庫より文庫版が発売されました。

 

 

あらすじ

美人会社員が惨殺された不可解な殺人事件を巡り、 一人の女に疑惑の目が集まった。同僚、同級生、家族、 故郷の人々。疑惑の女の関係者たちがそれぞれ証言した 驚くべき内容とは。 ネットや週刊誌報道を中心に、無責任な「噂話」が 広まり、彼女の人物像はますます見えなくなっていく。 果たして彼女は残忍な魔女なのか、それとも――。 ヒットメーカーの湊かなえが描く、 意地悪目線がじわじわ怖い、最新ミステリ長編。

renzaburo.jp

 

ポイント

  • 「噂話」による物語展開
  • SNSの描写および活用法
  • 関連資料によるフリーシナリオ
「噂話」による物語展開

 殺人事件は明確な主人公や対話からは語られず、週刊誌のフリー記者・赤星の取材や抗議の手紙という形で描かれてゆきます。それらの情報提供者の”固定カメラ”のような独特な言い回しで「白ゆき姫殺人事件」は輪郭を帯びてゆくわけですが、事件解決に社会的責務のある警察や当事者たちではなく、極論をいえば言いたい放題な立場の人々の発言によって容疑者・城野美姫は形作られてゆきます。真実やミステリの動線がねじ曲げられつつも、そういった過程がある種の戯画的に描かれる様が本書の魅力です。ただ、個人的には文章の口語的で独特なリズムに慣れず、読むのがやや辛かったです。良くも悪くもミステリからすれば”ノイズ”を多く含む内容なので、読み手には読解能力よりも傾聴能力が求められるように感じます。


SNSの描写および活用法

 本作では「マンマロー」という、Twitterに似た短文投稿サイトによっても「白ゆき姫殺人事件」の情報は拡散してゆきます。その内容の理論性が微妙に有るような無いようなバランス感覚がこそばゆいです。Twitterは2006年からサービスを開始していますが、それがミステリの仕掛けとして昇華されていることに感動を覚えます。一方、当時にはそれほど市民権を得ていなかったのか「FF外から失礼します」や「リプライ大喜利」は存在せず、SNSの研究資料として読み解くのも面白いです。そしていわゆる”裏アカウント”はありませんが、物語の終盤、当事者の手記や警察の発表が事実上の”裏アカ”になっており、それらに現代社会の闇を覚えつつもミステリ的なひっくり返しがあって読み応えがあります。


関連資料によるフリーシナリオ

 本作は第1~4章が同僚などによる「白ゆき姫殺人事件」への取材であり、第5章が当事者の手記による告白となっています。そして「しぐれ谷OL殺害事件」関連資料という形式で、各章の内容を承けたSNSの反応や週刊誌記事等が付属しています。「関連資料」は本書の終盤1割ほどの紙幅を占めていますが、第1章から順々に読んでいって最後に関連資料を目にするのか、あるいは各章の区切りで関連資料に飛んでその反応を確認するかで、本書の読後感は大きく変わってくると思います。これはロールプレイング・ゲームによくある「フリーシナリオ」のような感覚であり、読み手の選択によって事件や人物の印象が大きく異なってくる内容になっています。それでいてミステリという単独のエンディングに集約すべく、どのルートを辿ってもしっかり結末に行き着く構成が見事です。
 また電子書籍版では各章の終わりに関連資料のリンクが付いていて、それとタップすると資料が表示され、フリックして読み終えると次章に移るといった、とても読みやすいデザインが施されています。

 

終わりに

『白ゆき姫殺人事件』は映画化されており、まずある程度の視点の固定化によりストーリーが追いやすくなっていること、そして容疑者の城野美姫を演じる井上真央のハイライトの消えた演技と、作中のSNSは「Twitter」となってカメラの上にツイートが拡張現実のように流れてくる演出が見事な作品です。対して原作書籍はやや地味ではありますが、読み手・読む時期・読む手法によって印象が大きく変わる、それでいて著者特有の「イヤミス」(読んだ後に嫌な気分になるミステリー)はしっかり盛り込まれているオススメの1冊です。

 

白ゆき姫殺人事件 (集英社文庫)

白ゆき姫殺人事件 (集英社文庫)