AYUTANINATUYA

脱サラ・アラサー大学院生。日記と、趣味のゲーム・書籍・漫画などのサブカルを発信してます。

小説『マツリカ・マジョルカ』書評感想

 

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 今回は小説『マツリカ・マジョルカ』を紹介します。相沢沙呼による著作であり、カバーイラストは久方綜司が担当しています。2016年2月25日に角川文庫より発売されました。

 

 

あらすじ 

柴犬、こっちへおいで!
柴山祐希、高校1年。クラスに居場所を見つけられず、冴えない学校生活を送っていた。そんな彼の毎日が、学校近くの廃墟に住む女子高生マツリカとの出会いで一変する。「柴犬」と呼ばれパシリ扱いされつつも、学校の謎を解明するため、他人と関わることになる祐希。逃げないでいるのは難しいが、本当は逃げる必要なんてないのかもしれない……何かが変わり始めたとき、新たな事件が起こり!? やみつき必至の青春ミステリ。

www.kadokawa.co.jp

 

ポイント

  • フェティシズム
  • 日常系ミステリ
  • 凝った文章

フェティシズム

 物語は、とある事から廃墟ビルに住まうマツリカさんと出会う場面から始まります。語り部の柴山くんは噂話や怪談の調査を言いつけられ、それらを蒐集してはマツリカさんに報告すると事件の推理を聞かせてもらえる、というのが大枠の流れです。ただミステリの内容は予想に留まり、解決や事後収拾はありません。一方で柴山くんは端的にいってマツリカさんに惹かれており、特に彼女の身体目当てで会いに行く口実を探しては適当に話を合わせている印象です。この状況は別に悪いわけではなく、男子高校生が意中の女性を前にして著しく思考能力が低下し、ただ脳的には快楽物質が色濃く分泌するダウナーな雰囲気が漂っています。良い意味で頭を使わないミステリであり、マツリカさんと柴山くんのフェティシズム的主従関係として読んだ方が面白いと思います。


日常系ミステリ

 ミステリ要素もそれほど悪くなく、一応の筋は通っているように捉えられます。いわゆる日常の謎という、非犯罪的な内容の4つの短編で構成されている本書ですが、3つの内容が最後の1編の推理につながっていって、最後には爽快感が得られるような構成も一定の成功を収めています。


凝った文章

 全体的な文章力はかなり高く、特にマツリカさんの身体描写が緻密です。ただ一方で、女性とはあまり接点のない柴山くんが女性の服装に詳しすぎるのは疑問が残りました。また物語は柴山くん彼一人の視点で進むため、ミステリ的にどうしても映しきれない影の部分が多く、それらを伝聞で補った結果としてやや構成が乱れがちなところもあります。もう少し登場人物を増やした方がよかったと考えます。

 

ネタバレ(結末・オチ)

 柴山は自身の姉に関する謎を出題するものの、マツリカは彼の姉が他界していることを見抜いてしまう。柴山とマツリカは言い争いをしてしまうが、互いの状況は変わらずにまた廃墟に足を運ぶ。

 

終わりに

 表紙絵と内容との相乗効果が高い『マツリカ・マジョルカ』です。マツリカさんと柴山くんとの主従関係は一時的なものであり、互いに彼らの内情を知り始めると瓦解しかねない危うさを含んではいます。しかしそういった早急な気持ちを「青春ミステリ」として部外者の人物消化に充て、彼らの関係性を維持し続けるという毒にも薬にもならない小説です。ただ最後のミステリは一気に柴山くんのパーソナリティに踏み込んできて、そこに意外性がありつつもちょっとした卑怯さも感じました。雰囲気エンタメな良書です。

 

マツリカ・マジョルカ (角川文庫)

マツリカ・マジョルカ (角川文庫)