今回はビジネス書『無形資産が経済を支配する 資本のない資本主義の正体』を紹介します。原題『CAPITALISM WITHOUT CAPITAL The Rise of the Intangible Economy』はジョナサン・ハスケル(Jonathan Haskel)とスティアン・ウェストレイク(Stian Westlake)による著作であり、翻訳は山形浩生が担当しています。2018年にPrinceton University Pressより原本が、2020年1月17日に東洋経新報社より邦訳が発売されました。
あらすじ
GAFAが台頭する中、無形投資の増大は生産性や格差にどのような影響をもたらすのか? 企業・投資家・銀行・政府はどのように対応すべきか? 有形資産とは異なる無形資産の4つの特徴とは何か?
これまで計測できなかった無形資産の全貌を、初めて包括的に分析した画期的名著『フィナンシャル・タイムズ』ベスト経済書
【推薦の言葉】
「世界経済最大のトレンド『無形資産』を理解したければ、本書を読むべきだ」――ビル・ゲイツ
【無形資産の一例】
・スターバックスの店舗マニュアル
・アップルのデザインとソフトウェア
・コカ・コーラの製法とブランド
・マイクロソフトの研究開発と研修
・グーグルのアルゴリズム
・ウーバーの運転手ネットワーク
概要
企業投資がソフトウェアや研究開発等の無形資産にシフトする中、企業や政府は何をすべきか? 気鋭の経済学者が分析・提言する。
目次
第1章 無形資産の台頭で何が変わるのか?
第Ⅰ部 無形経済の台頭
第2章 姿を消す資本
第3章 無形投資の計測
第4章 無形投資はどこが違うのか?:無形資産の4S
第Ⅱ部 無形経済台頭の影響
第5章 無形資産、投資、生産性、長期停滞
題6章 無形資産と格差の増大
第7章 無形資産のためのインフラと、無形インフラ
第8章 無形経済への投資資金という課題
第9章 無形経済での競争、経営、投資
第10章 無形経済での公共政策
第11章 無形経済はこの先どこに向かうのか?
2010年代により顕著になってきた「無形資産」について論じる本です。
「無形資産とは何か?」から始まり、その特性である4S(スケーラブル、サンクコスト、スピルオーバー、シナジー)について説明し、そしてそれらの要素を投資・経済・経営・会計・金融・政策の観点から分析してまとめています。
要約
- 20世紀後半から経済は有形資産(カネやモノ)から無形資産(ノウハウやアイデア)へ価値が移っており、今も続いている
- 無形資産は以下の特性(4S)をもつ
スケーラブル:規模の限界がない
サンクコスト:投資費用は回収できない
スピルオーバー:波及効果がある
シナジー:無形資産同士の組み合わせが有効である
- 無形資産への投資は会計に乗らないので、表面上は経済が停滞しているようにみえる
- 無形資産の利用度合いにより格差が生じる
- 無形資産に対応した金融システムが必要である
- 無形資産に対応したインフラが必要である
- 無形資産を生み出すリーダーシップが必要である
- 無形資産に対応した公共政策が必要である
- 今後は無形資産への投資が効果的である
- 無形資産への投資が過熱すると経済格差が広がり続けるため、対策が必要である
感想
極論をいえば、本書の最初と最後の20ページずつを読むだけでまとまっています。
ただ、やはり中身である無形資産への多角的考察に価値のある1冊であり、やや区分けの付かない部分があるものの、無形資産の理解はしっかりできる内容です。資産・投資・会計の網羅的図鑑になっており、GAFAを代表とする2010年代の経済の集合知になっています。
一方で、経済や資産関係の初心者向けとはいえず、また会社員や個人事業員よりも投資家・経営者向けの内容です。具体例・具体案も少なめで、実際の問題解決方法や無形資産の増やし方は他書に譲る形になっています。
加えて、ハードカバー原本が2018年(連載は2017年?)であり海の向こうではペーパーバック版も発売されている名著のようですが、邦訳は2020年とやや時代遅れな感じが否めません。ただ、著者のジョナサン氏もスティアン氏もまだ若いようで、本書の内容にも野心的な分析精神を感じると同時に、「資産について整理する」という結論を急がない客観的立場を守っているため、鮮度が保存されており充実した内容を備えています。また翻訳の山形氏は、トマ・ピケティ『21世紀の資本』の邦訳も担当しており、原本の高い理解度から分かりやすい日本語に仕上がっています。
- 作者:ハスケル,ジョナサン,ウェストレイク,スティアン
- 発売日: 2020/01/17
- メディア: 単行本