AYUTANINATUYA

脱サラ・アラサー大学院生。日記と、趣味のゲーム・書籍・漫画などのサブカルを発信してます。

小説『青くて痛くて脆い』書評感想

 

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 今回は小説『青くて痛くて脆い』を紹介します。住野よるによる著作であり、2018年3月2日に単行本が、2020年6月12日に文庫本がKADOKAWAより発売されました。

 

 

あらすじ

人に不用意に近づきすぎないことを信条にしていた大学一年の春、僕は秋好寿乃に出会った。周囲から浮いていて、けれど誰よりもまっすぐだった彼女。その理想と情熱にふれて、僕たちは二人で秘密結社「モアイ」をつくった。――それから三年、あのとき将来の夢を語り合った秋好はもういない。そして、僕の心には彼女がついた嘘がトゲのように刺さっていた。傷つくことの痛みと青春の残酷さを描ききった住野よるの代表作。

www.kadokawa.co.jp

 

ポイント

  • 秋好寿乃
  • モアイ

 

秋好寿乃

 本書のヒロインであり、語り部である僕(田端楓)の大学に入ってはじめてできた友人です。講義中に「この世界に暴力はいらないと思います」といった”痛い”発言と理想を標榜する彼女ですが、僕とともに「四年間で、なりたい自分になる」という信念のサークルを作ります。しかし三年後、就職活動を終えてあとは大学卒業を待つのみとなった僕の心の内には、いなくなった秋好のことだけが心残りでした。本書では秋好がどうなったのか、僕と彼女の関係に何があったのか、を追っていく物語となっています。

 

モアイ

 モアイとは秋好と僕とが立ち上げた秘密結社であり、大学サークルでした。はじめは展覧会や講演会に行ってみてそれについて議論する活動を行っていましたが、次第に社会や企業との関係をつなぐための”意識高い系”サークルになってゆきました。メンバーは増えて大学も協力関係になって大きくなった組織とは裏腹に、設立当初の目標とは異なった内情に嫌気が差し、僕はモアイを抜けます。ただ大学の卒業間際になって、モアイの破壊工作を決意し、その実行に奔走しはじめます。

 

ネタバレ(結末・オチ)

 秋好はモアイの中でヒロと呼ばれており、変貌したグループのリーダーを未だ務めていた。
 秋好自身もモアイの理想と現実が離れていることを認識していたが、理想を叶えるためには手段を選ぶことはできず、変わらざると得なかったと心情を吐露する。
 僕の活動により、モアイが学生情報名簿を企業に流していた事実が明るみになり、モアイは大学からペナルティを受けるとともに、秋好はモアイの解散を決める。
 僕が社会人にあってしばらく経ち、学生と企業との交流会に参加していた。モアイの心的外傷が癒えずにいる中、秋好らしき人物を見かけ、声をかけようとする。

 

終わりに

 モラトリアムを描きたいのは理解できますが、テーマが先走りすぎてる印象でした。
 いってしまえば僕(田端楓)の思い込みによる物語ですが、秋好という理想の彼女が変化してゆくとに対して、真正面から受け入れられないのが彼のキャラクターとしての弱さであり、これは『青くて痛くて脆い』の作品全体にも及ぶところだと感じます。他にも様々な立場の人物が登場しますが、ちょっと数が多すぎるためかそれぞれの個性が薄く、大学生とはいえセリフもたどたどしいです。顔が割れているとはいえモアイのサークルの内情を探るのも、友人任せにするのではなく田端本人がもっと積極的に核心部分へ迫っていった方が、後半の物語により説得力が持てたように思います。
 終盤のモアイとの関係を清算するシーンでも、要約してしまえば意見の相違やコミュニケーションの不和といえますが、そこに何かしらの比喩を用いて内容を分かりやすく、より読者が体感しやすくすべきでした。雰囲気で流れてしまった印象であり、物語としての締まりが悪くなってしまっています。ただ、そういった掴みどころのないところが、形のない理想を追い求める登場人物たちを模した内容だともいえます。
 総じて惜しい部分はありますが、「青春の痛々しさ」というテーマは詰まっている『青くて痛くて脆い』です。