AYUTANINATUYA

脱サラ・アラサー大学院生。日記と、趣味のゲーム・書籍・漫画などのサブカルを発信してます。

サマーウォーズ再考

 

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 アニメ映画『時をかける少女』や『未来のミライ』の監督を務めた細田守の新作『竜とそばかすの姫』の封切りが近い(2021年7月予定)。
 ここでは当新作とテーマが近しい(と考えられる)『サマーウォーズ』(2009年)を振り返ってみたい。

 

『サマーウォーズ』の背景について。
 マッドハウス制作の長編アニメ映画であり、2009年8月1日公開。監督・細田守、脚本・奥寺佐渡子、キャラクターデザイン・貞本義行、出演者に神木隆之介や桜庭ななみなどが揃い、日本テレビや角川書店(現KADOKAWA)をはじめとする製作委員会方式によって製作された。
 2006年に前作『時をかける少女』がヒットし、その座組を維持しつつ初の長編オリジナル作品となっている。過去昨『劇場版デジモンアドベンチャー ぼくらのウォーゲーム!』(2000年)との類似点はややあるものの、『サマーウォーズ』は数々の映画賞受賞とともに大ヒットした。そして以降に制作される『おおかみこどもの雨と雪』などはマッドハウスからスタジオ地図へ制作現場を移してゆくことになる。

『サマーウォーズ』のあらすじについて。
 テーマは家族愛である。
 OZ(オズ)というインターネットの仮想空間を世界中の人々が利用している2010年の日本が舞台で、高校生の小磯健二は夏希先輩にバイトを頼まれ、夏希の実家に出かける。そこでは夏希の曾祖母にあたる栄おばあちゃんの90歳の誕生日を祝うために大家族が集合しており、バイトの内容とはそこで夏希の婚約者のふりをするというものだった。
 一方、OZでは人工知能・ラブマシーンがハッキングを始め、その過程で健二はアカウントを乗っ取られ、犯人に仕立て上げられてしまう。OZの混乱が現実世界の社会インフラにまで影響して大混乱に陥り、栄は心臓発作で亡くなってしまう。一方、ラブマシーンを作ったのは陣内家の隠し子である侘助であり、一連の事件の責任を陣内家が背負う。
 陣内家とラブマシーンとの数度の戦いの末、全世界のOZユーザーの協力もありラブマシーンを撃破することに成功し、OZの混乱は収束する。そして陣内家は栄の葬儀と誕生日祝いを明るく行い、夏希は健二に感謝のキスをする。

 OZは2020年代のTwitter等SNSというより、2000年代のYahoo!などポータルサイトとしての役割が大きく、そこに個々性の強いアバター(アカウント)でアクセスするという世界観である。なので20年代から振り返ってみれば現実とは異なる設定であるが(作中における大統領のアバターは核ミサイルが発射できる設定になっている)、iPhoneをはじめ各個人が携帯デバイスを持っていて、それを用いてネット空間と接続し、他者と交流したり仕事をしたりゲームをしたりするのは先見性があったようにみえる。仮想世界が登場する作品において、しばしば仮想世界が現実世界を上回る事態が起こるが、『サマーウォーズ』においてはOZ空間と実空間が等価あるいは実空間が重要視されている傾向にある。あくまでもOZは現実世界における言語的・地理的障壁を取り除くために機能しており、それによりすれ違っていた家族がその間にある愛を再確認する加速装置の役割を果たしている。
 ストーリーとして、主人公の小磯健二は偶然にも夏希先輩にバイトを頼まれたことを発端として、その後も彼の数学的能力や純粋さが展開を後押しする場面もあるが、基本的には受動的なキャラクターである。ラブマシーンとの対決も彼が直接するわけではない。健二と同等以上にOZのセキュリティを突破する可能性のある人たちの存在を示唆する描写もある。健二に対してはそういった消極性が気になった。また物語中盤の、陣内家とラブマシーンとの戦いでは、OZへの接続環境をほぼ非現実水準で揃え、そこでの作戦も説明が足りてないなどフィクション感が強くなっている(アニメ的表現が過剰になっているともいえる)。ストーリーラインも、陣内家、OZ空間、高校野球長野県大会、テレビニュース内の小惑星探査機「あらわし」など、複数にまたがって繰り広げられるので物語中盤のテンポが削がれている印象はあるが、終盤につれて場面が交錯してゆくのが見事である。
 映像に関して、夏の青空と積乱雲を背景とした逆光で平面的な構図が目立つ。ゆえに各登場人物の明度がやや低いが、対するOZは白を基調としたどこまでも奥行きのある空間であり、そのコントラストが印象的だった。また各キャラクターが一喜一憂する場面では、多くの人物が同時に笑ったり泣いたりする場面が多い。快活な人物が快活に喜んだり、寡黙な人が盛大に喜んだり、クールなキャラが表情を崩さなかったりして、とにかく動きが多いので見ていて飽きることがなく、また繰り返し視聴すると新しい発見があって面白くなるような仕組みになっている。

 総括として、『サマーウォーズ』は日本人口が最大値域に達した平成の家族観を基盤とし、ドラマでもカートゥーンでもないジャパンアニメーションらしさが柱となって、そこに2000年代のインターネットに対する期待感で支えられた王道エンタメ・ファミリーアニメである。ややご都合主義な展開やその後の実世界との相違は気になるが、ボーイ・ミーツ・ガールらしいジュブナイル性と、それを見守る大人たちの優しさが際立って優れた作品である。

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 2021年7月公開予定の『竜とそばかすの姫』の舞台もインターネットである。

新しい時代を“生きる”、すべての人へ―
『時をかける少女』(2006)、『サマーウォーズ』(2009)、『おおかみこどもの雨と雪』(2012)、『バケモノの子』(2015)、そして、『未来のミライ』(2018)。過去作すべてが日本アカデミー賞最優秀アニメーション作品賞を受賞し、『未来のミライ』ではアニー賞受賞に米国アカデミー賞長編アニメーション部門にノミネートと、日本のみならず世界中の観客を魅了し続けてきたアニメーション映画監督・細田守。そんな細田守の最新作『竜とそばかすの姫』の公開が、スタジオ地図創立10周年を迎える2021年、夏に決定。
物語の主人公は、過疎化が進む高知の田舎町で父と暮らす17歳の女子高生・すず。幼い頃に母を事故で亡くし、心に大きな傷を抱えていたすずはある日、“もうひとつの現実“と呼ばれる超巨大インターネット空間の仮想世界<U>と出会い、「ベル」というアバターで参加することに。心に秘めてきた歌を歌うことによってあっという間に世界に注目される存在になっていくベル(すず)の前に、<U>の世界で恐れられている竜の姿をした謎の存在が現れる—
これまで細田監督が『デジモンアドベンチャー ぼくらのウォーゲーム!』(2000)、そして代表作『サマーウォーズ』と、およそ10年に1度描いてきたインターネットの世界を舞台に、『時をかける少女』以来となる10代の女子高生を主人公に迎え、世界の片隅で自分を失ってしまった少女が開く新しい扉、未知との遭遇、そして成長していく姿を、細田監督ならではのリアル×ファンタジーを通じ描き出します。
あなたは誰?
お前は誰だ?
もうひとりの自分。
もうひとつの現実。
すずと竜が出逢った先には一体どんな物語が待っているのか?
この夏、細田守が贈る、
渾身の最新作がベールを脱ぐ
(竜とそばかすの姫より引用)

ryu-to-sobakasu-no-hime.jp

 未だ公開されている情報が少ないが、どうやら主人公である女子高生・すずは<U>の世界で肥大化した「ベル」の虚像に圧迫されている点と、彼女と竜との少人数でクローズな交流が描かれている点が推察される。『竜とそばかすの姫』は『サマーウォーズ』からインターネットをどう捉え直したのか、そしてそれをアニメーションとしてどう表現するのか、封切りが楽しみで仕方ない。 

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