AYUTANINATUYA

脱サラ・アラサー大学院生。日記と、趣味のゲーム・書籍・漫画などのサブカルを発信してます。

小説『カケラ』書評感想

 

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 今回は小説『カケラ』を紹介します。湊かなえによる著作であり、2020年5月14日に集英社より発売されました。

 

 

あらすじ

他人の視線と自分の理想。少女の心を追い詰めたものとは──?
都内の美容クリニックに勤める医師の橘久乃は、久しぶりに訪ねてきた幼なじみから「痩せたい」という相談を受ける。カウンセリングをしていると、小学校時代の同級生・横網八重子の思い出話になった。幼なじみいわく、八重子には娘がいて、その娘は、高校二年から徐々に学校に行かなくなり、卒業後、ドーナツがばらまかれた部屋で亡くなっているのが見つかったという。母が揚げるドーナツが大好物で、性格の明るい人気者だったという少女に何が起きたのか―?

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ポイント

  • 連続独白形式
  • 自殺少女・吉良有羽
  • 穴の空いたドーナツ

連続独白形式

 本作は美容外科医の橘久乃が何人かの独白を聞き、読み手がそれをなぞってゆくという形式で進んでゆきます。それは自殺した少女とその母親についてであり、語り部たちはその関係者であって警察などの公的立場ではなく、各々が関わった時期の印象を思いのままに述べてゆく流れです。そこには色々な視点が盛り込まれていて、やや脱線する部分もありますが、話が進むにつれて段々と事件の真相が明らかになってゆくのに不気味な高揚感があります。


自殺少女・吉良有羽

 自殺した少女は吉良有羽といい、高校の入学時から太っていましたが性格は明るくて運動もでき周囲とはよい人間関係を築いていました。しかし彼女の母親が作るドーナツを食べているうちにさらに太ってゆき、さらには担任教師に痩せるよう注意されたところで心を閉ざして不登校になります。彼女の考えをよそにして、周りの人々が太っている/痩せているについてあれこれ喋る滑稽な雰囲気が読みどころです。


穴の空いたドーナツ

 吉良有羽が愛して止まないのが、母親の作る穴の空いたドーナツです。これは栄養管理士でもある母親が試行錯誤を重ねたレシピからなる手作りもので、他にプレゼントされた人からの評判もすこぶるよい一品です。本作の冒頭から「ドーナツを大量に食べて死んだ」という旨の記述があり、「ドーナツに毒が入っていたのでは?」と推理する場合もあるかもしれませんが、そうではないです。あくまで親子や周囲の人間関係を繋ぐためのアイテムです。他にも作中には多数の料理や美容に関する数多くの豆知識が登場するため、そこに注目して読み進めるのも面白いです。

 

ネタバレ(オチ・結末)

 横網八重子によって娘の有羽は、尊敬するデザイナーの千佳から寝取った吉良恵一の子供だった。有羽は過去の不倫を理解しており、恵一や八重子へ復讐の意を込めて自殺した。

 

終わりに

「美容」がテーマとありますが、顔のキレイ/ブサイクといものよりも、体形のデブ/ガリに重きが置かれています。またミステリ要素はやや薄く、どちらかといえばドロドロした人間ドラマといえます。親子2世代に渡る話で複雑な人間関係構造になっているので、相関図を頭の中で描く必要がある内容です。とりとめのない話も多いですが、それだけ外見は人間関係・仕事・食事・スポーツなどなどまで波及してストーリーを多層化している、それくらい「見た目が大切だ」というメッセージが込められています。「太っているか否か」ということだけでこれだけ物語が広げられることに感心しますが、それほどドラスティックなテーマでもないので、どんでん返しの結末とはいかないです。また、自殺した吉良有羽の名前が挙がって物語の本線が発火し始めるまでに紙幅の3割ほどかかり、話が面白くなってくるまで結構な我慢を強いられるのが辛いところでした。山場である7~9割を読み進んだところはカタルシスで溢れますが、結末はあっさりしていてやや毒気を抜かれる読後感です。形式や雰囲気も著者の他作品とそれほど変わらないので、良作~凡作の域に留まらざるを得ない評価です。

 

カケラ

カケラ