主演:新垣結衣によるドラマ『掟上今日子の備忘録』放送終了お疲れさまでした。
やや遅れたものの、原作小説を読んだ上で当録画を見通しました。
自分なりの備忘録として感想を綴ろうかと思います。
まず、小説『掟上今日子の備忘録』から始まる「忘却探偵シリーズ」について、
事件は今日中に解決します――そして、明日には忘れます
眠るたび記憶がリセットされる白髪の名探偵・掟上今日子のタイムリミットミステリー。
二〇一五年十月より日本テレビ系列にて『掟上今日子の備忘録』がドラマ化、
(西尾維新 OFFICIAL WEBSITEより引用)
西尾維新による2014年10月以降発売のライトノベルシリーズです。
2016年1月現在にて計5巻が刊行されています。
(1巻から順に掟上今日子の備忘録・推薦文・挑戦状・遺言書・退職願)
ちなみに刊行順と作品中の時系列は一致していません。
探偵役・掟上今日子の雰囲気は同作者の別作品『化物語』に登場する女子高生・羽川翼に
近いキャラクターでありながら、内容は純粋なミステリーや探偵小説であり、
また「記憶のリセット」という要素が様々な観点や結末を支えています。
記憶のリセットには探偵に求められる守秘義務を厳守できたり、嫌なことにも
「明日には忘れるから」と割り切って突き詰めることができたりするメリットがある反面、
「消費税8%は2014年に導入される」・「スマートフォンはタッチパネルで操作できる」・
「クラウドコンピューティングとはネットワークによる情報管理である」といった
情報の消去に加えて、「明日のために今日をがんばろう」という、
人としてのモチベーションの減衰にもつながりかねない一面もありながら、
忘却探偵・掟上今日子はどんどん事件を解決してゆきます。
テレビドラマ版は、探偵・掟上今日子役は新垣結衣、語り部・隠館厄介は岡田将生です。
小説・掟上今日子はあまり感情を表情に出さない設定なのですが、
新垣結衣による今日子さんはかなり喜怒哀楽が激しくてポップになっていました。
隠館厄介は小説だと「冤罪体質」のために少しネガティブ思考なものの穏やかですが、
岡田将生による厄介はややキレやすいキャラクター像に変わっています。
そして実は隠館厄介は『備忘録』と『遺言書』にしか登場せず、他の作品では
別の語り部によって話が進んでゆくのですが、ドラマでは全て隠館厄介が現れます。
また、小説版では会話劇と推理パートが大部分を占めて淡々と進んでゆく印象ですが、
ドラマ版ではコメディ色やアクションシーンの挿入がやや見受けられます。
ここで、テレビ版の各話と原作小説の関係は以下の通りです。
テレビ版話数 小説タイトル 小説各話タイトル
第1話 備忘録 第一話 初めまして、今日子さん+第二話 紹介します、今日子さん
第2話 挑戦状 第一章 掟上今日子のアリバイ証言
第3話 推薦文 第一章 鑑定する今日子さん
第4話 推薦文 第二章 推定する今日子さん+第三章 推薦する今日子さん
第5話 備忘録 第三話 お暇ですか、今日子さん
第6話 遺言書 全編
第7話 備忘録 第四話 失礼します、今日子さん+第五話 さようなら、今日子さん
第8話 挑戦状 第二章 掟上今日子の密室講義
第9話 挑戦状 第三章 掟上今日子の暗号表
最終話 テレビ版オリジナル
個人的にお気に入りなのが第6話です。
(サブタイトル:名門女子校で美少女が殺人!? セーラー服の忘却探偵に恋の予感)
そのあらすじは、
古本屋のバイトを辞めた厄介(岡田将生)は名門女子中学校の管理作業員として
働き始めた。ある火の放課後、厄介は用具室で一人の女子生徒が気を失い倒れているのを見つける。部屋にはボンベからガスが吹き出し充満していた。
厄介は少女を助け出そうとするが、なぜかドアが開かず閉じ込められてしまう。
どんどん酸素が薄くなる中、厄介は警報機を鳴らし、一命を取りとめる。
厄介が助けた少女は、逆瀬坂雅歌(さかせざかまさか)(浅見姫香)。現場に遺書が
残されていたため、雅歌の自殺未遂と思われた。しかし、あらぬ噂が広がり、厄介が
雅歌を殺そうとしたのではないかと疑いがかかる。厄介の無実を証明するためには雅歌の
証言が必要だったが、彼女は命に別状がないはずなのに、なぜか眠ったまま目覚めない。
厄介は今日子(新垣結衣)に事件の真相を明らかにしてほしいと依頼する。
今日子は早速学校内での調査を開始。雅歌のクラスメイト達は人との接触を避けていた彼女とは距離を置いており、雅歌の名前もうろ覚えだった。生徒達に話を聞くうちに何故か
今日子はセーラー服に着替えさせられてしまう。一方厄介は、巡回中の警察官
(吉田沙保里)に逮捕されそうになる。
今日子は厄介とともに事件現場の用具室へ向かい、厄介に事件当時の話を聞く。
厄介は記憶をたどるうち、現場近くでもう一人の女子生徒の姿を見たことを思い出す。
今日子はその少女が雅歌を殺そうとした可能性を考える。
雅歌は自殺しようとしたのか、それとも第二の少女による殺人未遂なのか?
そして雅歌は目覚めない理由とは?
(0テレビ・掟上今日子の備忘録・第6話あらすじより引用)
この回の原作『掟上今日子の遺言書』は<忘却探偵シリーズ>で初めての長編であり、
ミステリーとしても面白いですし、「表現の自由」についても語られるなど、
結構な厚みのあるストーリー展開なのですが、
ことの始まりは女子生徒の飛び降り自殺(ドラマではガス自殺)ですし、
今日子さんへの依頼も遺書の内容が漫画からの引用であり、
その真意を確かめるという導入部(ドラマでは厄介の冤罪証明)になっています。
なので小説の序盤では出版社絡みのやり取りが交わされるので、
(そこで表現の自由についての議論があり)事件の推理だけでも“線”が多数あって
複雑になっている上に別の要素まで入ってくるので難しい内容になっています。
その点、ドラマでは遺書の内容に関する部分はほとんどカットされ、
遺言少女の自殺の動機に焦点が当てられます。
この物語の流れの変更と、それに伴う結末へのスピードがとても良くなっています。
個人的にはいわゆる「原作超え」を目撃したと感じるくらい面白かったです。
蛇足で述べるなら、小説<忘却探偵シリーズ>は作中の語り部が備忘録として、
つまりは自分自身のために記述しているという設定になっているのですが、
『遺言書』だけは巻頭に「遺言少女に捧ぐ――」と書かれているように、
遺言少女のために綴られており、(多少の構図の違いはあるものの)『少女不十分』に
登場する"少女U"に対して物語る"僕"のイメージを重ねたりもしました。
記憶がリセットされるという今日子さんの特性上、物語はどこまでも続いてゆき、
なおかつ進まない様相を呈しているような<忘却探偵シリーズ>ですが、
これからどうなるのでしょうか、とても楽しみです。