AYUTANINATUYA

脱サラ・アラサー大学院生。日記と、趣味のゲーム・書籍・漫画などのサブカルを発信してます。

<物語>シリーズぷくぷくのサービス開始から終了までまとめ

 

f:id:ayutani728:20200524012641j:plain

 iOS/Android向けゲームアプリ『<物語>シリーズぷくぷく』が2020年3月31日にサービス終了して約2ヶ月後、ゲーム内通貨の払戻し手続も済んだことから、そろそろその事の顛末について綴ってもいいように思えたので、ここに書き残す。

 

概要

『<物語>シリーズぷくぷく』(ぷくぷく)は2018年8月21日にサービス開始したパズルゲームである。開発はNHN PlayArt、運営はAniplex、コンテンツは西尾維新/講談社の小説『化物語』からはじまる「<物語>シリーズ」およびシャフトによるアニメ作品である。開始時点で開発のNHN PlayArtは『LINE:ディズニーツムツム』、運営のAniplexは『Fate/Grand Order』、西尾維新の著作も当時既刊24巻を抱えており、申し分ない座組であった。
 ただ一方で2017年夏頃のサービス開始予定が延期され、実際に開始されたのは1年後であった。

ゲーム内容

f:id:ayutani728:20200524011646j:plain

 ジャンルはパズルゲームである。<物語>シリーズがキャラクターがデフォルメされた「ぷく」となって画面中央に集まり、それをタップしてつないで弾けさせる、その際に各キャラクターのボイスや演出が挟まれるといった「<物語>シリーズ版ツムツム」である。ただ後発のためパズルゲームとしてより洗練されており、演出もパチンコ機のように派手で爽快な印象がある。
 その代わり、パズルとしてより複雑さが増しておりプレイヤーの技量に依存する部分が大きくなってしまったこと、またプレイするスマートフォンへの負荷が大きく、端末の処理能力によってはパズルスコアが低下したりブラックアウトしたりする現象が確認されていた。それゆえ魅力の1つであるゲーム性を十分に体験できるのは一握りの上級者に限られ、大多数のプレイヤーは他の方策によって当アプリを楽しまざるを得ない状況だった。
 ちなみに推奨端末はiOS9以降(iPhone・iPad)、Android4.4以上(※一部非対応機種あり)であるが、話によるとiOS11プリインストールのiPhone8(2017年9月22日発売)でも動作の厳しい場面があったようである。またAndroid機はiOS機と比べて不利であったようである。

 課金要素は主にガチャである。約2週間毎に季節イベントが実施され、それに伴い新規キャラクターや「想絵馬」というサポートスキルが追加され、それらを入手する機会を得るために「ぷくジェム(有償分)」が必要である。新規キャラクターのPickUPガチャ排出率は3~7%であり、回転率はおおよそ3000円で10連だった。ただゲーム内には通常のパズルプレイにて入手できる「ぷくコイン」、ミッション等のクリアにより入手できる「ぷくジェム(無償分)」でもガチャを回すことができ、それらの時間さえかければ無尽蔵に入手できる「無課金要素」の比重が大きいことから、それほどマネーゲームな内容ではなかった。 

歴史の出来事

 ここからは『<物語>シリーズぷくぷく』の歴史の中で印象的だった出来事を挙げてゆく。

  • 溌剌札束インフレ
  • 一面のラベンダー
  • ガチャ仕様変更
溌剌札束インフレ

f:id:ayutani728:20200524011729j:plain

 2018年9月20日に新規追加したキャラクター『貝木泥舟 <偽物の詐欺師>』とサポートスキル『元気溌剌戦場ヶ原さん』がとても強力だったためゲームバランスが大きくインフレした。
『溌剌』の内容は「互いにつなげるとさらに高得点になる、特別な高得点ぷくが出現するよ」というゲームスコア計算式に作用する効果だが、これに不具合があり異常なボーナス値加算によって軽々と1億点越えのスコアが出せる状況となってしまった。ゲームリリース1ヶ月後は数千万点を出すのに精一杯な環境であったがそれを覆してしまい、これまで取り組んできたプレイヤーを呆れさせてしまった。なお10月1日に不具合修正が行われ、実施当初にガチャで使用したすべてのジェムやコインを返還する補填が行われたので、運営側としても数百万円程度の損害を被ったと考えられる。
 また『偽物の詐欺師』について、「高得点の札束ぷくが現れるよ 札束ぷくがはじけると、札束ぷくが補充されるよ」という計算式作用の効果を持つが、こちらには不具合はなかった。他方、ある一定の手順を踏むことでパズル中のすべてを札束にできる「札束ループ」の方法が編み出された。これにより該当キャラクターのパズルスコアは札束ループができるか否か、また他のキャラクターのパズルプレイにおいても「アシスト設定」によって同様の「札束ループ」を用いることが可能であった。ゆえにプレイヤーのパズル能力および育成状況を鑑みず「札束ループ」がゲームスコアを左右する結果となってしまい、パズルゲームとしての意義は失われた。

一面のラベンダー

f:id:ayutani728:20200524011749j:plain

 2019年5月1日の期間限定イベントにて新規追加されたサポートスキル『一面のラベンダー』もとても強力であり、また「ぷくコイン」などの各種アイテムを集めるのにも適した内容であったため、この所持の有無によってプレイヤー間に大きな格差が生まれてしまった。
『ラベンダー』の内容は「中央付近のぷくを、ぷくはじけボーナスが高いぷくに変化させるよ」という、一見するとよく分からないスキルだが、高ランクまで育成するとその効果範囲とボーナス値が大きくなり、結果としてハイスコアや多量コインの獲得が可能になる内容だった。
 この1つ前には「魔法少女まどか☆マギカinぷくぷくスペシャルイベント」が実施されていて盛況であった反面やや燃え尽き症候群な状況であった点、また『ラベンダー』は期間限定ということで入手機会が限られる点、そして『ラベンダー』のスキル内容を理解して高ランクまで育成し適切にプレイするまで時間がかかった点から、この『ラベンダー』を取り逃したプレイヤーは多く存在したようである。後のサービス終了まで『ラベンダー』はハイスコア編成や効率プレイ周回を占拠する形となったことからもかなりの批判対象となった。

ガチャ仕様変更

f:id:ayutani728:20200524011807j:plain

 2019年11月15日に各ガチャの仕様が一部変更された。これまでは新規追加キャラクターを入手するためには「ぷく札ガチャチケット」というアイテムを用いてガチャを回す必要があったが、それは「想絵馬ぷくコインガチャ」を10回することで入手できた。「想絵馬ガチャ」を回すには「ぷくコイン」というゲーム内通貨が必要だったが、パズルを適度に周回していれば自然に貯まってゆくものであり、前述の『ラベンダー』を用いればその貯金はさらに捗った。しかし今回のガチャ仕様変更では「想絵馬ぷくコインガチャ」が廃止され、ゆえに「ぷく札ガチャチケット」の入手機会が限られるようになった。つまり無課金での新規キャラクター入手が事実上困難になり、課金誘導が行われた結果である。
 この頃の売上予想は全盛期の30~40%程度となっており、運営としては課金システムの健全化を図ったと考えられる。ただユーザー視点ではゲームコンテンツが刷新されず、一方で集金方法だけ強化されたように感じ取れた。ゆえにユーザー離れが加速し、半年以内にはサービス終了となった。

 他にも、ハロウィンイベント(2018)の短期間低確率PickUPガチャ、一部ぷく札および想絵馬におけるスキルバランス調整の実施、イースターイベントインフレ、<物語>フェスイベントなどについては、明暗あるがここでは割愛する。

問題点

  • 課金要素の少なさ
  • ゲーム性のなさ
  • 物語のなさ
課金要素の少なさ

『ぷくぷく』はとにかく課金要素が希薄だった。まずガチャの排出率が高めに設定されており、コンプリートは大変だが他の大手アプリと比べれば安易な内容だった。数週間おきに新規キャラクターが追加されてゆくが、いわゆる”推しキャラ”に絞れば隔月ごとの登場であり、そこに持ちうるリソースをつぎ込めば無課金でもかなり楽しく遊べてしまう状況だった。各キャラクターやスキルは入手した後に育成する必要が出てくるが、それらのランク上げや限界突破にも特別な課金アイテムを必要としない点が、さらにマネタイズを遠ざける要因になっていた。キャラクター所持数制限やアイテム枠といったシステム改善にも課金要素は存在せず、元のゲームデザインそのものに欠陥を抱えていた。

ゲーム性のなさ

 課金要素が少なく、「<物語>シリーズ」は大きなコンテンツ(と考えられる)のためユーザー数はそれなりに多かったようだが、『ぷくぷく』は『ツムツム』の流れを汲んだ息抜きの手段やいわゆる”キャラゲー”に甘んじてしまった部分も取り上げなければならない。『テトリス』、『ぷよぷよ』、『パズル&ドラゴンズ』のような戦略的・競争的なゲームとして捉えられていないことと、用いるスマートフォンの端末性能によってスコアに優劣が生まれてしまう環境から、比較的奥深いゲームシステム性に目を向けるユーザーが少数になってしまったのも不幸な境遇だった。
 さらにアプリリリース当初から更新合戦を繰り返していた企業系ゲーム攻略サイトにおいても、ゲームコンテンツの乏しさから相次いで撤退していった。後にはネット検索を用いてもSEO対策のみで上位ヒットするもののまったく中身のないサイトのみが取り残され、後進のゲームコミュニティが育たなかったのも輪をかけて残念であった。

物語のなさ

 ガチャとは低確率でゲームデータが入手できるシステムである。端的にいってしまうと儚いが、一方であらゆるソシャゲユーザーはガチャの結果に一喜一憂する。それは目当てのキャラクターが入手できた運命に”物語”を感じるためである。その物語を極限まで大きく修飾したのが『Fate/Grand Order』である。当ゲームでは入手したキャラクターにゲーム的な優劣は存在するものの、それを覆い尽くすように綿密な物語が用意されており、ゆえに当マスター(ユーザー)は多額の金額を支払っても高い満足感が得られる仕組みになっている。一方で『ぷくぷく』のキャラクターは季節柄の期間限定イベントに合わせた内容でデザインされているが、特に明確なテキストもアニメーションもなく、毒にも薬にもならないデフォルメされた紙芝居が繰り広げられるだけである。タイトルとは裏腹にコンテンツが空洞化してしまったのは大きな衰退要因だったと考えられる。

終わりに

 サービス終了に際して、まずゲーム内通貨の払戻し手続の対応が適切であったことに謝辞を送りたい。サービス開始の数ヶ月後からややユーザーの方がゲーム内容を熟知しているような部分があり、それらの是正が遅れ気味であったことは否めないが、最終的には運営とユーザーとのしっかりとしたコミュニケーションにより解決されたり水際で食い止めたりした事柄もあったことから、総じて良心的な運営であったことは声高らかに主張したい。ただ感情論だけではサービス継続は成り立たず、明確なゲームデザインや創造性やバランス調整が存在しなければ皆が満足する結果は得られないという、ありふれた失敗に終わってしまったのがゲームアプリ『<物語>シリーズぷくぷく』だった。

参考

  • 〈物語〉シリーズ ぷくぷく | 西尾維新デジタルプロジェクト

monogatari-pucpuc.jp

  • #セルラン分析/ゲーム株『Game-i』

game-i.daa.jp

  • 21世紀版「もの」への問い――「艦これ」と「FGO」を通じて(小森健太郎)