AYUTANINATUYA

脱サラ・アラサー大学院生。日記と、趣味のゲーム・書籍・漫画などのサブカルを発信してます。

小説『掟上今日子の乗車券』感想

 

f:id:ayutani728:20181110002451j:plain

 西尾維新による小説『掟上今日子の乗車券』を読み終えまして、その感想を綴ります。
 
掟上今日子の乗車券・あらすじ
掟上今日子―-彼女の記憶は眠るたびにリセットされる。その特性をいかし、彼女は「忘却探偵」として活動していた。そんな今日子が営業活動と称し、ボディーガードの親切守を引き連れて旅にでる。目的地もとくに決めていないという。依頼があって動くわけではないこの旅、果たしてどんな事件が待ち受けているのか。
(講談社BOOK倶楽部より引用)

『掟上今日子の備忘録』からはじまる「忘却探偵シリーズ」の第11巻目です。今回は今日子さんが営業活動に出かけることを発端とする連作短編であり、彼女のボディーガードである親切守が語り部となっています。また最後には、次巻『掟上今日子の五線譜』に続く序曲が、『備忘録』の語り部であり「冤罪体質」の隠舘厄介との対話で披露されます。

『乗車券』の全体的な雰囲気としては、同じ語り部と連作短編形式である『推薦文』に似ています。また、旅行という側面から『旅行記』の雰囲気も感じる一冊です。

 

掟上今日子の乗車券・感想
 西尾氏の『化物語』などの<物語>シリーズに近い、掛け合いやダジャレを中心とした会話劇が多く、これまでの「忘却探偵シリーズ」にはなかった掟上今日子や親切守のキャラクターが浮かび上がっている内容です。一方で、タイムリミットミステリーというテーマと、時間や記憶の制約による関係性の広がり・狭まりについてはあまり深く掘り下げられない印象です。またミステリーとしても、時間や空間が制約されているのでトリックや真相も適度にまとまっており、お手軽パズルゲームのようなイメージを抱きます。
 旅行記ということで、様々な移動手段が登場します。序文から始まり、寝台特急、オーベルジュ(宿泊レストラン)を挿んで、高速艇、水上飛行機、そして高速バスという舞台です。各環境をしっかり活かしたミステリーとなっているので、旅行中に読むとより内容を味わえるかもしれません。
『乗車券』の最後に次巻『五線譜』に続く「掟上今日子の五線譜(序曲)」が、留置所にいる隠舘厄介と呼び出された親切守との対話によって語られます。そして様々な事件を経たためか、隠舘厄介は大犯罪者風に、親切守も探偵風になっています。掟上今日子は一切登場しないので、かなり異質な内容となっています。しかしこの短編は、掟上今日子は記憶を保持できませんが、周りの人間が影響を受けることで掟上今日子の外部記憶装置としての作用を象徴している、ある意味で忘却探偵シリーズらしい一篇かとも思います。
 出版の経緯をみても、第10巻目『色見本』で『五線譜』の予告がされていたのと、『乗車券』の各章の初出がメフィスト2016~2018であることから、『乗車券』はこれまで収録し損ねていた短編をまとめるのと、『五線譜』へのつながりをとるための調整的な役割を担っている一冊です。次巻にも期待したいですね。