滝先生の立場/アニメ『響け! ユーフォニアム』感想
2015年4月から放送されていたアニメ『響け! ユーフォニアム』(第1期)全14話を観終えたので、遅れながら感想を綴ろうかと思います。
まず当アニメのあらすじについて。
高校1年生の春。中学時代に吹奏楽部だった黄前久美子は、クラスメイトの加藤葉月、川島緑輝とともに吹奏楽部の見学に行く。
そこで久美子は、かつての同級生・髙坂麗奈の姿を見かける。葉月と緑輝は吹奏楽部への入部を決めたようだったが、まだ踏み切れない久美子。思い出すのは、中学の吹奏楽コンクールでの麗奈との出来事だった。
吹奏楽部での活動を通じて見つけていく、かけがえのないものたち。これは、本気でぶつかる少女たちの、青春の物語。
(『響け! ユーフォニアム』・INTRODUCTIONより引用)
本作品は武田綾乃による小説を元にした、吹奏楽を通じた青春ドラマものです。舞台は京都の宇治山で、山に川に落ち着いた街並にも魅力が溢れています。
各話リストは以下の通り。
- 第一回 ようこそハイスクール
- 第二回 よろしくユーフォニアム
- 第三回 はじめてアンサンブル
- 第四回 うたうよソルフェージュ
- 第五回 ただいまフェスティバル
- 第六回 きらきらチューバ
- 第七回 なきむしサクソフォン
- 第八回 おまつりトライアングル
- 第九回 おねがいオーディション
- 第十回 まっすぐトランペット
- 第十一回 おかえりオーディション
- 第十二回 わたしのユーフォニアム
- 最終回 さよならコンクール
- 番外編(未放送) かけだすモナカ
物語の流れとして、第1~5話(幕開け~サンフェス終了)を序盤、第6~8話(ショートストーリー)を中盤、第9~13話(オーディション~コンクール)を終盤と区切ると、序盤はスロースタートで、中盤はとても深く、終盤は予定調和的な面白さがある、という印象でした。
序盤は、まず北宇治高校吹奏楽部が(久美子の視点から)ややネガティブに描かれますし、実際のところ部内に問題を抱えているので、明るくなれる話題が少なくて微妙な感じでした。
でも中盤になると、序盤で固めたキャラクター関係が本格的に動き始めて、まさに群像劇的な物語が始まってゆきます。特に髙坂麗奈の力強さが魅力的で、彼女と久美子とのやり取りはレズビアンっぽいけどそうではない絶妙な具合を伴うところに、観ているとどんどん引き込まれてゆきます。
終盤はコンクール(ゴール)を目指す一本道ストーリーなのでシンプルです。いつの間にかアニメというよりも、実際の音楽劇や演奏会に近い感覚で観ていたような気がします。
感想ポイントを述べてゆきますと、まず「未来につながっていない音楽って辛いな」と思いました。語り部の久美子は小学4年生からユーフォニアムを吹いているようですが、その実力は「うまい」程度です。高校1年生なのにオーディションに合格したり、そもそも「ユーフォが好き」と言い切れたりするところはすごいですが、それに対する恩恵が少なすぎると思います。久美子より演奏の上手い先輩が居て、音楽系の大学にも進学せず、ユーフォを嫌いになる環境要因がたくさんあるなど、あまりにもひどい仕打ちだと感じます。でもそういう状況をあまり精査せずに“青春”というエネルギーで片付けるのはやっぱりすごいなと思いました。
それと、『響け! ユーフォニアム』は顧問の滝先生の立場からみると、教育に役立つことで溢れています。そもそも、久美子が北宇治高校に入学した時点では吹奏楽部の評価はイマイチだったのですが、そこに滝先生もやって来て改善を図ります。例えば、
・部員たちに自ら目標を決めさせる
・部員たちにどうしたいか訊く
・オーディションを設ける
ということをします。基本的に何もしてないんですね。部内目標を考えるのは久美子たち部員であって滝先生ではないですし、壁にぶち当たったときにどうするかを考えるのも滝先生ではないです。オーディションを設けるのは、実行したことといえばそれまでですが、別に例年通りに学年順から、またはオーディションを行わずに滝先生の独断でメンバーを決めてもよかったわけです。でも滝先生のすごいところは部員たちに、
「自分たちが全国大会を目指すことに決めたんだ」
「自分が演奏したいんだ」
「自分がオーディションに合格するんだ」
という自発行動だと思い込ませていることです。これはつまり当事者意識や内的報酬と呼ばれるものです。滝先生はいい感じに部員たちへ「あなたたち自身の問題ですよ」と語りかけて、手取り足取り指導するよりもスムーズに部員たちの実力を伸ばしてゆきます。
個人的には滝先生のショートストーリーがあってもよかった気がするのと、久美子と麗奈の中学時代(過去)の逸話も深いようなので、その辺りを番外編で1話くらい描いてほしかったです。絵も綺麗ですし、ストーリーも王道的で言うことはありません。2016年秋の第二期や劇場版でもこの調子を維持してほしいです。