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推理小説談議/小説『掟上今日子の家計簿』感想

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 西尾維新による小説『掟上今日子の家計簿』を読み終えまして、その感想を綴ります。
 

掟上今日子の家計簿

 眠るたび記憶がリセットされる名探偵・掟上今日子。引き受けた事件は即日解決の彼女のもとに、今日も悩める刑事からの難題が舞い込んだ。呼び出されたのはなぜか、事件現場ではなく遊園地。依頼は、ある事件の容疑者より速く、巨大な脱出ゲームをクリアすることで…? 名探偵vs.容疑者の「最速」の脱出ゲーム、開幕!
(「BOOK」データベースより引用)
掟上今日子の備忘録』からはじまる「忘却探偵シリーズ」の7巻目です。今回の語り部は、事件を担当する各刑事であり、独立短篇集です。
 スタンスとしては『退職願』とほぼ同じ構成です。事件に不審な点があり、各刑事によって今日子さんが呼び出され、1日で鮮やかに事件を解決する、という流れです。ただわずかな違いを挙げるなら、『退職願』では今日子さんによる事件解決によって、事件担当の各刑事が深く感銘を受けるわけですが、『家計簿』では一転して謎解きに専念し、あまり感情的な内容は含んでいない物語になっています。『家計簿』はミステリーに特化している、ともいえるでしょう。
 なので今日子さん自身へのキャラクターの掘り下げもほとんどなく、「キャラもの」として読むとやや不満が溜まる一作だと思います。一方で、『挑戦状』のような推理小説談議が披露されるので、ミステリーの中でミステリーを語るというメタ構造で読み進めると面白いです。

 

 ちなみに『家計簿』には4つの短篇が収録されています。
 簡単に、各短篇の感想を綴ります。
 
 
 クイボノという、殺人のトリックでも動機でもなく、損得勘定から犯人を推理する本篇です。損得勘定とはおおよそ、お金の流れを考えることですから、『家計簿』という短篇集のタイトルに合っていてよかったです。
 
 叙述トリックを説明しながらダイイングメッセージを解読するだけという、とても映像化は期待できない一作です。最近だと「西尾維新デジタルプロジェクト」によって、その世界観にまた新たな一面が加わったわけですが、それについて作者自身が言及しているようにも読み取れる内容です。
 
 江戸川乱歩の『心理実験』みたいな内容かと予想していたら、当たらずとも遠からず、といった感触でした。ホラーテイストに仕上がっており、忘却探偵シリーズの中では異色作かもしれません。
 
 宣伝帯にある脱出ゲームのクリアを目指す本作です。スマホを使って現実の迷路を解いてゆく様はバーチャル・リアリティを彷彿させます。そしてそこからタイトルの”筆跡鑑定”へ鮮やかにつなげる見事な内容運びが魅力です。いくら現代生活がデジタル機器で溢れようとも、ミステリーの入り込める余地はたくさんありそうです。
 
 次作第8弾『掟上今日子の旅行記』はすでに予告されており(2016年10月発売)、『失礼します、今日子さん』(『掟上今日子の備忘録』第四話)の長篇版ではないかと察しています。今日子さんがどういう目的で旅行するのか、誰と旅行するのか、そして連泊する場合はどうやって記憶を維持してゆくのか、といった点を想像しながら、発売日を待とうかと思います。
 
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