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小説『打ち上げ花火、下から見るか? 横から見るか?』感想

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 大根仁による小説『打ち上げ花火、下から見るか? 横から見るか?』(角川文庫)を読み終えまして感想を綴ります(ネタバレを含みます)。
 

小説『打ち上げ花火、下から見るか? 横から見るか?』

「打ち上げ花火は横から見たら丸いのか、平べったいのか?」
夏の花火大会の日、港町で暮らす典道は幼なじみと灯台に登って花火を横から見る約束をする。その日の夕方、密かに想いを寄せる同級生のなずなから突然「かけおち」に誘われる。なずなが母親に連れ戻されて「かけおち」は失敗し、二人は離れ離れに。彼女を取り戻すため、典道はもう一度同じ日をやり直すことを願うが――。繰り返す夏休みの1日、ふたりが最後に見る花火のかたちは――?
 1993年に岩井俊二監督によって制作されたテレビドラマ、または1995年公開の映画『打ち上げ花火、下から見るか? 横から見るか?』が2017年に劇場アニメとして蘇ります。本作はそのノベライズ版となっています。
 ジャンルとしては青春群像劇・恋愛もの・SF(すこしふしぎ)になるでしょうか。主人公・典道がヒロイン・なずなに抱く淡い恋心が、夏の青空、プール、打ち上げ花火、そしてタイムスリップを通して描かれます。
 
 実写版とアニメ版の違いは以下の通りです。
時代;実写:1990年代 → アニメ:2017年
主人公たち;実写:小学生 → アニメ:中学生
タイムスリップの回数;実写:1回 → アニメ:3回
その他の事件や小道具、そして結末も若干違います。

 

感想

 小説としての出来はひどいです。脚本といっていいほどに説明描写、セリフ、そして語り部である典道の心理描写ばかりです。主人公(典道)を通じてのみなずなや友達の行動や表情が描かれるので、正直いって典道の思うがままの内容であり広がりも深みもありません。中学生なので秀逸な描写もありません。しかしながら、そんな中でもヒロイン・なずなの艶容な雰囲気はかすかに醸し出せていますし、背景の"夏休み感”はうまく引き出せています。(あとがきにもありますが、)劇場アニメは映像的なシーンが多いらしく、その表現へ期待感を持たせるような内容ではありました。
 
 それとドラマ版とは異なってタイムスリップの回数が増えているのでストーリーが複雑になっており、劇場で一通りアニメを見ただけでは理解が難しいかもしれません。その点でこの小説版は映画の補足の役割を果たしていると思います。
 少し残念だったのは、物語序盤のプールでなずなが典道に胸元のトンボを取ってくれと頼むシーンです。ドラマ版だとワンピース姿なのに、アニメ版(小説版)ではスクール水着となっています。ワンピースの方が雰囲気が出そうで好みでした。
 
 打ち上げ花火について。ドラマ版では典道の友達が「打ち上げ花火を横から見たら丸いのか? 平べったいのか?」という疑問を確かめるために灯台へ行く、という始まり方でストーリーが進みます。ですが典道となずなの間に打ち上げ花火はあまり関係なく、あくまで背景装置、そして群像劇における時間同期として作用しています。しかしながらアニメ版(小説版)での花火はストーリーの本筋にしっかり絡んでおり、この辺りの変更はよかったと思います。
 
 
 在庫切れが多発しているようなので、興味のある方、ドラマ版が好きだった方、劇場アニメを観る予定の方は迷わず手にとって一読すべきだと思います。