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AYUTANINATUYA

20代の工場作業員だってこんなことを考えている

映画『ハーモニー』感想(追記版)

Movie

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なかむらたかしマイケル・アリアス監督による映画『ハーモニー』を見てきました。

その感想を先日こちらに書いたのですが、自分の中に書ききれないものが残っており、

もう少しの追記を思い立ちました。

通常版が、映画を見るかどうか迷っている人、映画を見た上で周囲の感想を知りたい人に

向けられているとすれば、この文章は映画を見て何かしら気になるところがあり、

また『ハーモニー』に強く惹きつけられた人にとって価値のある文章であると思います。

 

それでは感想を各要素5点満点でまとめてみます。ちなみに原作小説を読了済みです。

 

当作品について説明しますと、

 

解説

『寫眞館』などのなかむらたかしと『鉄コン筋クリート』などのマイケル・アリアス

監督を務め、34歳で亡くなった伊藤計劃SF小説を映画化した劇場版アニメーション。

カオスのような世の中から高度な医療社会に切り替わった地球を舞台に、

抵抗を試みた少女たちの戦いを活写する。『ベルセルク 黄金時代篇』シリーズなどを

手掛けたSTUDIO4°Cがアニメーション制作を担当。生きている実感を持てない作り物の

世界を震撼(しんかん)させる、魂の絶叫に衝撃を受ける。

シネマトゥデイより引用)

 

あらすじ

「大災禍」と呼ばれる世界規模の混沌から復興した世界。かつて起きた「大災禍」の反動

で、世界は極端な健康志向と社会の調和を重んじた、超高度医療社会へと移行していた。

そんな優しさと慈愛に満ちたまがい物の世界に、立ち向かう術を日々考えている少女が

いた。少女の名前は御冷ミァハ。世界への抵抗を示すため、彼女は、自らのカリスマ性に

惹かれた二人の少女とともに、ある日自殺を果たす。

13年後、霧慧トァンは優しすぎる日本社会を嫌い、戦場の平和維持活動の最前線にいた。

霧慧トァンは、かつての自殺事件で生き残った少女。平和に慣れ過ぎた世界に対して、

ある犯行グループからの世界に向けて出された「宣言」によって、世界は再び恐怖へと

叩き落される。

霧慧トァンは、その宣言から、死んだはずの御冷ミァハの息遣いを感じ取る。

トァンは、かつてともに死のうとしたミァハの存在を確かめるために立ち上がる。

(PROJECT-ITOH <harmony/> Introductionより引用)

 

原作小説は2008年に出版されたのですが、2011年に起きた東日本大震災の後の

世の中の流れ(震災復興や各種SNSによる個人の可視化)が小説に似ており、

また小説自体も面白くヒットした作品です。

ちなみに『ハーモニー』の舞台は伊藤計劃の前作『虐殺器官』のその後であり、

『ハーモニー』に先だって『虐殺器官』が劇場公開されるはずだったのですが

虐殺器官』の制作会社マングローブが破産したため延期となり、

『ハーモニー』が先に封切りされることになりました。

 

それでは感想に移ります。

 

・物語:4点

原作小説に忠実で、とても深みのあるストーリーです。

終盤にやや原作とはことなる部分があります。個人的には映画版の方が好きです。

一方で原作だと、ある場所に行って、それこれ何かの情報を得て、また次の場所に行って、

……という、わらしべ長者のようなまどろっこしい筋書きなのですが、

ある程度にそういう感覚は小さくなっていまして、

なおかつ過去の話が効果的に挿入されているので話の中に引き込まれやすいです。

一方で、話の始まりで宿敵が登場した際に「この人物と最後に対峙するんだろうな」と、

感づける人からするとスローペースな部分もあるかと思います。

また、原作を読んでいないと分かりにくい・分からない部分もあります。

 

・映像:1点

本編の多くの部分で3DCGが使用されており、回り込むようなカメラアングルの際に、

キャラクターの表情の不気味さがかなり目立ちます。セル画も良くはないです。

SF的な建造物やメカ類の作りも、もう少しこだわってほしかったところです。

ただ、作中にはオンライン回線で多数の人物が通話するシーンがあるのですが、

その場面ではCGが良い雰囲気を出していたと思います。

 

・音楽:3点

特徴的なBGMは無かったです。雰囲気重視だと思います。

主人公・霧慧トァン(V.C.沢城みゆき)と重要人物・御冷ミァハ(V.C.上田麗奈)の

セリフを際立たせるためにかなり気を遣っていたようです。

エンドロールに入る際のハーモニー、さらには主題歌『Ghost of a smile』は良かったです。

 

・配役:5点

主人公・霧慧トァン(V.C.沢城みゆき)と重要人物・御冷ミァハ(V.C.上田麗奈)の

声が素晴らしいです。

霧慧トァンは大人となった今ではかなり好戦的な性格をしており、

一方で13年前のミャハの出来事から抜け出せない少女っぽいところがあるのですが、

その二面性を上手く併せ持った演技をしていると感じました。

御冷ミァハは類い希なカリスマ性の持ち主なのですが、

過去と現在とあいだに性格がほとんど変化していません。

その2つをハスキーな、ある意味で幼い声が語りかけてきます。

 

・演出:2点

最後の最後のシーンで誰かが白いモノリスの前で浮かび上がる文字を読み、

そして立ち去るのですが、これが何を意味しているかが分かりにくいです。

原作小説には短いエピローグがあり、映画ではその中身を表現できていないです。

物語には最後の部分を変更すると意味合いがかなり違ってくるものがあり、

この映画もその類いだと思います。

反対に、原作小説にはモノローグや説明的な文章がかなり多いですが、

映像では退屈になりそうなそれらの部分をテンポよく描いています。

 

総評:映像がひどい。

原作好きのイメージ補完と上田麗奈さんのファンが見るべき映画です。

(物語:4 映像:1 音楽:3 配役:5 演出:2 合計:15/25)

 

****

 

そもそも『一九八四年』や『すばらしい新世界』といった社会小説が気に入っていて、

そういう系統の小説や映画を探ってゆくうちに自然と伊藤計劃にたどり着いた。

別に自分は極端な左翼とか社会主義者なわけではなくて、マクロなものの見方や、

Ifを突き詰めた論理力、そしてそれをもっともらしく描く文学性に魅せられたから、

先に挙げた架空の物語を、本棚の結構な特等席に置き立ててある。

 

そして、自分が小説『ハーモニー』を読んだのは映画化が発表される少し前だった。

正直にいって、むちゃくちゃ感動した。

人には何かしらの考える軸、それこそ生き方に強く衝撃を与える作品に出会う機会が

数度あって、その時には激しい感情の揺れ動きがあるものだけれど、

しばらくするとすっかり彼や彼女の中で重要なものとなって、さらに時が流れると、

その宝物は全盛期ほどではないけれども確かに輝き続けるものであり、

そういったことを『ハーモニー』を読み終えた頭の後ろのところで考えていたけれども、

いつまでも雷雨のような波乱が収まらなかった。

おそらく、自分の中で<harmony/>に似た状態を認めるか否かについてのわだかまりが

『ハーモニー』では全肯定されて、それがうれしいと同時に、救いの無い物語が悲しく、

その強烈な感情の挟み撃ちが特別だったように思う。

 

小説のいいところは文字であるから、読まなければその架空の世界に入らなくて済むし、

また小説の中から勝手に何かが出てくることも無いところだ。

小説はあくまでも小説であり、その物語は文章の中だけに存在する。

小説はあくまでも小説であり、その物語は文章の中だけで完結する。

でも自分は、読み終えてご飯を食べたり誰かとしゃべったり運動したりするときでさえ、

いつまでも『ハーモニー』の物語の中に閉じ込められて苦しい日々でした。

 

2015年11月13日に映画『ハーモニー』は封切だった。

その数週間前になると自分には再度<ハーモニー効果>が現れて、その主題歌である

『Ghost of a smile』を繰り返し聞いては憂鬱になるという自傷行為をしていたのだけれど、

やっぱりそれだけの思い入れがあったからだろうか、いろいろな批判もある中で、

個人的には映画『ハーモニー』も特別な一作になった。

そういうバックグラウンドと、それゆえの感想をもった人が、少なくとも一人は居た。

 

ハーモニー〔新版〕 (ハヤカワ文庫JA)

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映画「ハーモニー」ARTBOOK

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