AYUTANINATUYA

脱サラ・アラサー大学院生。日記と、趣味のゲーム・書籍・漫画などのサブカルを発信してます。

小説『#柚莉愛とかくれんぼ』書評感想

 

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 今回は小説『#柚莉愛とかくれんぼ』を紹介します。真下みことによる著作であり、2020年2月12日に講談社から発売されました。

 

 

あらすじ

超期待の新人 現役女子大生作家、衝撃デビュー! 第61回メフィスト賞受賞作
アイドルの炎上、ファンの暴走、ネット民の情報拡散――今読むべきSNS狂騒曲(ミステリー)!
アイドルグループ「となりの☆SiSTERs」、僕の推しは青山柚莉愛(あおやまゆりあ)。その柚莉愛が動画生配信中に血を吐いて倒れた。マジか! 大丈夫なのか? でも翌日、プロモーションのためのドッキリだったってネタばらしが……。本気で心配した僕らを馬鹿にしやがって。ありえない、許さない! SNSで柚莉愛を壊してやる!

bookclub.kodansha.co.jp

 

ポイント

  • アイドルとアンチ
  • #柚莉愛とかくれんぼ
  • ソロアイドルの最終形態

 

アイドルとアンチ

 本書はアイドルの柚莉愛と彼女のアンチ(反発者)の2人の視点によって進みます。柚莉愛は売れないアイドルグループのセンターを務めていますが、それゆえ求められることが多く、しかし疲弊してゆく中でもアイドルを諦められない矛盾を抱えながら過ごしてゆきます。一方で「@TOKUMEI」と名乗るアンチも、柚莉愛のことを熟知しながらもネットで誹謗中傷してしまい、満足感とともに虚無感を覚えるやり切れない思いを秘めています。

 

#柚莉愛とかくれんぼ

 表題は作中の事件の総称です。柚莉愛はネット配信で血を吐いて倒れ、その終わり際に「#柚莉愛とかくれんぼ」という文字が画面に映り込みます。終了後にファンの間で考察が行われますが、後日に一連の出来事が新曲プロモーションの演出だと明かされ、”炎上”してゆきます。他方、ファンの間でも今回の騒動を巡って様々な議論が行われ、それによって「アイドルに何を求めるか?」が追求されてゆく展開となっています。

 

ソロアイドルの最終形態

 柚莉愛たちのアイドルユニット「となりのSiSTERs」は事務所の先輩アイドル・如月由香の妹分と位置づけられています。彼女は「ソロアイドルの最終形態」と呼ばれるほど人気が高く、作中でもその凄さが時折語られますが、最後まで伝聞のみで本人は登場せず物語は終わります。この構造は柚莉愛たちがずっと売れない、そして彼女らのかすかな光明によってファンとアンチもかろうじて存在感を保っている、という全体の寂寥感を演出しています。

 

ネタバレ(オチ・結末)

「@TOKUMEI」は「となりのSiSTERs」のメンバー・久美である。
 久美のファンの1人の暴走により柚莉愛は誘拐されてしまい、そこで助けを求めるものの救いは訪れない。

 

終わりに

 1つ1つの要素は弱いですが、組み合わせ方はなかなか面白いと思います。
 まずアイドル小説によくある溌剌とした雰囲気は本作では徹底して排除されており、終始陰鬱とした雰囲気が漂います。またアイドルとファンやアイドルとプロデューサーといった関係よりもアイドルとアンチという歪な関係性でもって昨今のアイドル像を映し出してゆく様は、やや特殊でありながらアイドル論として的を射ている部分もあり、読みどころはあると感じます。
 ミステリとしてはいわゆる叙述トリックですが、「@TOKUMEI」がただの一般人でないことは容易に想像できる内容かと思います。また明かされるタイミングも早く、その意外性も薄いことから、現代チックな推理小説として読むにはやや力不足な印象があります。
 SNSやネットリテラシーについても描かれていますが、これらに関しては同時代の小説ならば一様に扱っているレベルより少し上な程度であり、そこに新規性や意外性を見出すのは難しいです。
 総評として、突き抜けた個性はないかもしれませんが、「アイドル×ミステリ」という異質な組み合わせで読み物として成立するところは評価してもいい気がする『#柚莉愛とかくれんぼ』です。

 

#柚莉愛とかくれんぼ

#柚莉愛とかくれんぼ

  • 作者:真下 みこと
  • 発売日: 2020/02/12
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)