AYUTANINATUYA

脱サラ・アラサー大学院生。日記と、趣味のゲーム・書籍・漫画などのサブカルを発信してます。

小説『プラチナデータ』書評感想

 

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 今回は小説『プラチナデータ』を紹介します。東野圭吾による著作であり、2012年7月5日に幻冬舎文庫から発売されました。

 

 

あらすじ

国民の遺伝子情報から犯人を特定するDNA捜査システム。その開発者が殺害された。神楽龍平はシステムを使って犯人を突き止めようとするが、コンピュータが示したのは何と彼の名前だった。革命的システムの裏に隠された陰謀とは? 鍵を握るのは謎のプログラムと、もう一人の“彼”。果たして神楽は警察の包囲網をかわし、真相に辿り着けるのか。

www.gentosha.co.jp

 

ポイント

  • プラチナデータ
  • 二重人格
  • 電トリ

 

プラチナデータ

 本書は人の持つ遺伝子から犯罪捜査を進める日本を舞台に物語が始まります。語り部の1人であり科学捜査解析員である神楽は、殺害現場に残された髪の毛を分析したところ、彼自身が犯人として挙げられてしまいます。成り行きで始まった逃走劇の途中で「プラチナデータ」という謎に遭遇し、科学捜査の裏に隠された秘密に迫ってゆくという流れのミステリです。

 

二重人格

 語り部であり指名手配の扱いを受ける神楽は、じつは二重人格であり、彼のもう1人の人格であるリュウが殺害に関与しているのではないかと思い至り、彼との対話を試みます。その背景には、彼の父親が自殺した過去、それを招いてしまった後悔、そしてそれを遺伝子研究によって克服しようとする熱意、さらには謎の少女・スズランが渦巻いています。様々な設定を通じて人の心の在りようを明らかにしようとするSF的な側面も読み取れます。

 

電トリ

『電トリ』というのは作中に登場する架空の脳刺激装置で、両耳の電極から流れるパルスによって薬物とは違った刺激が味わえる「電気トリップ」の略称であり、何人かの使用者も登場します。もう1人の語り部である警察捜査官の浅間は、科学捜査とは異なるものの電トリに関する事件を追うことで、彼もまたプラチナデータに迫ってゆきます。

 

ネタバレ(結末・オチ)

 犯人は精神分析医の水上。
 プラチナデータとは政治家や官僚といった上級国民のDNA情報を隠蔽したものの総称であり、「モーグル」とはプラチナデータを見つけ出すプログラムである。
 神楽と浅間は水上に眠らされてしまうが、浅間の機転により水上の電トリに不備があったこと、またリュウの協力もあり彼に射殺される。浅間は科学捜査の日々に戻り、神楽は暮礼路市のコミューンにて陶芸を始める。

 

終わりに

 ミステリとしては王道な警察ものですが、様々なサイエンス要素でストーリーを盛り上げている反面、話の方向が振れすぎてかなり読みにくい印象でした。
 正直にいうと、作中のできごとはすべて天才数学者の蓼科早樹によってコントロールされている雰囲気を感じました。彼女がDNA操作システムを作り、神楽がそれによって遺伝子を信じ込み、犯人は蓼科を殺害するものの、さらなるカウンタープログラムによってそれさえも暴かれる、という設計的な枠組みであり、ミステリとしては面白いですが情緒的な余白はやや少ないです。「遺伝子とこころ」というテーマを扱っているだけに、その欠落が悪目立ちしてしまっている印象の『プラチナデータ』です。

 

プラチナデータ (幻冬舎文庫)

プラチナデータ (幻冬舎文庫)