今回は小説『暗鬼夜行』を紹介します。月村了衛による著作であり、2020年4月20日に毎日新聞出版から発売されました。
あらすじ
嘘つきは教師か? 生徒か?
SNSに投じられた学校代表の「読書感想文」盗作疑惑。渦巻く疑心が人の心の暗鬼を呼び覚まし、一人の教師を奈落の闇に突き落とす。エンタメ小説の鬼才が教育現場の圧倒的リアルに迫った学園震撼サスペンス!
ポイント
- ダークな教師生活
- 行政まで広がるスケール
- 登場文学作品
ダークな教師生活
現代の公立中学校を舞台として、語り部の国語教師・汐野は学校代表の読書感想文に盗作疑惑がかけられていることを聞きます。代表者は文芸部の三枝子であり、汐野も熱心に指導した生徒でした。責任を押しつけられて事件の調査に乗り出しますが、そこには様々な生徒関係や教育問題が渦巻いており、ダークな教師生活が描かれます。
行政まで広がるスケール
盗作疑惑を発端として数々の疑わしき人物が挙がり、その立場からやがて学校の統廃合問題まで波及し、事件のスケールは中学校を飛び出して大人の行政にまで及びます。また語り部の汐野は、婚約者の父親の計らいによって政治家になろうとしており、これまた関係者の境遇から地域の政治問題にまで発展する壮大なサスペンス模様が繰り広げられます。
登場文学作品
大人から子供まで数多くの人物が登場する本作ですが、それに比例して人物を表わす文学作品も多く取り上げられます。国語の定番である『山月記』や『銀河鉄道の夜』をはじめとして、『羅生門』、『暗夜行路』、『失われた時を求めて』なども取り上げては重苦しい展開にちょっとした文学講義が挿まれ、読者の幅を広げつつテーマに深みを持たせる役割を担っています。
ネタバレ(結末・オチ)
盗作疑惑は真実であり、犯人は藪内三枝子の自作自演だった。
事件により数々の人物が元の居場所を離れることになり、語り部の汐野は事の顛末を小説として書いている。
終わりに
面白いけど疲れる小説です。
ダークなサスペンスなので爽快感が無いのは当たり前なのですが、教職という重労働をそのまま映し出し、肥大化した盗作疑惑問題の責任を押しつけられる重圧、一方で当の盗作疑惑の犯人のヒントさえなかなか掴めず、人の心の裏側だけが明らかになってくるという、徹底的に読むモチベーションを削ぐ構成になっています。加えて、語り部の汐野は元作家志望であり一種の文学論を持ってはいますが、それゆえに公平な観察者としては不安があり、彼の講義は興味深いというより鼻につきます。確かに、各々がもつリアリティがテーマや結末につながってくるところは見事ですが、だからといって負の側面をそのまま書き写す内容は評価に困るところです。
盗作告発がスマホの盗用というトリックで何度も起きたり、それが教育問題や地域議論まで広がったりするのもやや現実味に欠けるところはありますが、それよりもエンタメミステリとして盛り上がる雰囲気の方が増してくるように感じました。賛否分かれはしますが読み応えは詰まっている『暗鬼夜行』です。