AYUTANINATUYA

脱サラ・アラサー大学院生。日記と、趣味のゲーム・書籍・漫画などのサブカルを発信してます。

小説『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。14』書評感想

 

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 今回は小説『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。14』を紹介します。渡航による著作であり、イラストはぽんかん⑧が担当しています。2019年11月19日にガガガ文庫より発売されました。

 

あらすじ

まちがい続ける青春模様、シリーズ完結。
季節はまた春を迎えようとしていた。同じ日々を繰り返しても、常に今日は新しい。悩み、答えに窮し、間違えを繰り返しても、常に飽きもせず問い直すしかない――新しい答えを知るために。言葉にしなければ伝わらないのに、言葉では足りなくて。いつだって出した答えはまちがっていて、取り返しがつかないほど歪んでしまった関係は、どうしようもない偽物で。――だからせめて、この模造品に、壊れるほどの傷をつけ、たった一つの本物に。故意にまちがう俺の青春を、終わらせるのだ――。過ぎ去った季節と、これから来る新しい季節。まちがい続ける物語が終わり……そしてきっとまだ青春は続いていく。シリーズ完結巻。

comics.shogakukan.co.jp

『あやかしがたり』、『ガーリッシュナンバー』、『クオリディア・コード』など、人気ライトノベルに留まらず、アニメ脚本なども務める作家・渡航。『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』は通称「俺ガイル」あるいは「はまち」と呼ばれています。ジャンルは高校学園ラブコメであり、ひと癖抱えている各キャラクターの可愛くも明瞭なイラストが挿入されています。アニメ化などメディアミックスも盛んであり、累計発行部数1,000万部を突破する大人気シリーズです。

感想

 第14巻のポイントとして、12巻から続いているシリーズ最終章のテーマ、主要登場人物である比企谷、雪ノ下、由比ヶ浜の3人の関係性を正す物語です。それは学園プロム(プロムナード;ダンスパーティ)を巡ることで進行してゆき、ついに本巻で結末を迎えます。

 ストーリーの序盤は、前巻までの流れで雪ノ下が提案したプロムが無事開催されることとなり、それに携わった各キャラクターを労いつつ卒業式などのイベントが過ぎ去ってゆきます。また比企谷たちが所属する「奉仕部」の約束により、比企谷は雪ノ下や由比ヶ浜の”お願い”を聞くことになるなど、13巻までの総まとめが行われます。

 中盤では、由比ヶ浜のお願いを聞く際にラブコメが起こりつつもプロムの準備・開催といった実務的な仕事が降りかかり、比企谷たちはそれに奔走してゆきます。そして本来の目的を遂げた奉仕部の、あるいは3人の関係性に終止符を打とうとします。

 しかし終盤、とある出来事によって再度プロムが開催されることになってしまいます。ただ比企谷たちはこれまでの経験を活かし、自分自身や周りの人物との関係性を乗り越え、そして新学期を迎えてゆきます。

『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。14』、まとめです。本作はラブコメを背景にしつつも、こじれた青春群像劇を貫き通しました。プロムの開催に際しての物事の関係性はやや複雑で読みにくい部分もありますが、くすりと笑えるジョークで支えられています。シリーズは完結しますが、彼らの青春はまだまだ続いていくような、とても余韻の残る内容でした。

 

要約

 由比ヶ浜に相談した比企谷は、ついに雪ノ下に告白することを決意する。由比ヶ浜は比企谷への思いの言葉を飲み込む。
 比企谷の行動により再びプロムを開催する必要が出てきてしまうが、雪ノ下や由比ヶ浜をはじめこれまでの友人との協力により2度目のプロムも無事成功する。その終わり、雪ノ下は比企谷に告白し、彼と彼女が一緒に居られる理由を作る。
 新学期を迎えて比企谷の妹・小町が奉仕部の部長となって活動を引き継ぐ。そこに由比ヶ浜が現れ、「あたしの好きな人にね、彼女みたいな感じの人がいるんだけど、それがあたしの一番大事な友達で……。…… でも、これからもずっと仲良くしたいの。どうしたらいいかな?」と相談し、彼らの青春は続いてゆく。

 

感想(ネタバレあり)

 長ったらしい部分もあり、消化不良な箇所もありますが、総じてよくまとめたと思います。
 比企谷と雪ノ下が関係性を新たにするのは当然の流れだと考えており、そこに由比ヶ浜との関係性を(ちょっと粗雑ながら)うまく落ち着かせた、という印象です。ただやっぱり、彼らがいう「本物」、「パートナー」、「距離や時間や仕事で忘れる」というのは、考えとしてはもっともなのですが、実際に体験してみると案外違う結果になるものだと思います。もちろん、彼らはフィクションの住人なので体験できないわけですが、一方ではフィクションでもあるので、エピローグで彼らの高校卒業後の一幕があった方がより物語の妥当性が際立ったと考えてしまいます。
 プロムの話は本当にややこしいです。プロムの課題が雪ノ下と母親の親子問題にリンクしていますし、イベントの規模も学内に留まらず保護者会や他校との連携まで話が広がっています。かつ比企谷たちは再びプロムを企画開催し、それは物語的には納得のいく展開ではありますが、読み手としては「さっき終わったプロムをまたやるのかよ」と愚痴をこぼしたくなるくらいの焼き増し感が否めません。

『俺ガイル』のキャラクターの関係性にはおおよそ収拾が図られていますが、雪ノ下雪乃の姉である陽乃については、彼女だけケリが付いていませんし、救われていないように感じます。彼女はおそらく比企谷と雪ノ下のように「本物」を求めつつ辿り着けずに諦めた、主人公たちのメタキャラクター(もしかしたらあり得たかもしれない姿)なのですが、彼女は比企谷たちの言葉に動かされていないですし、彼女はおそらくずっと諦念を抱きつつ過ごしてゆくのを考えるといたたまれないです。
 対して、奉仕部顧問の平塚先生はけっこう贔屓目に描かれている印象です。彼女はシリーズ当初から一貫して変わらず格好いいのですが、本巻でもその魅力が十二分に発揮されています。また彼女の離任は本人にとっても辛いはずなのですが、比企谷たちとしっかり別れつつ甘えないところに「変わらなくてもいい」という”肯定感”を覚えます。
 もし仮に「高校3年生編」や「大学生編」の『俺ガイル』が描かれたら確実にシリーズの評価を落とすでしょうが、比企谷たちは高校を卒業していないので題材はたくさん生み出せますし、小説は書き手や読み手の想像を超えてくる場合もあります。なので万が一に続編が出る可能性はあると考えています。

 

終わりに

 どういった事情かわかりませんが、やはり11~12巻が出た辺りから刊行ペースが急激に落ちており、青春ラブコメというテーマ上『俺ガイル』は年齢を重ねてしまった読み手側にとって痛々しさが際立ってしまう内容になってしまいました。ただ一方で、以前からのファンにゆっくりと読まれたこともあってキャラクター考察にとても深みがあり、好きな人はとことん好きなシリーズに仕上がっています。しかしさらに掌を返すと、(TVアニメ第3期を機会に)今からシリーズを読み返すと第6~8巻あたりにはあった”青春感”や”スピード感”が第12~14巻では大人になっており(失われており)、評価の分かれる雰囲気もあります。
『俺ガイル』シリーズ完結、ありがとうございました。