今回は漫画『化物語(9)』を紹介します。原作は西尾維新、漫画は大暮維人が担当しています。2020年5月15日に講談社から発売されました。
あらすじ
西尾維新の代表作『化物語』を『エア・ギア』の大暮維人が豪華漫画化!!
現代青春ノベルの金字塔を世界一の絵で! 「週刊少年マガジン」にしかできない最高最興奮の新しい"物語"
今語られる、阿良々木暦の“始まり”の物語。全ては、高貴で尊大で美しく、傷だらけの吸血鬼との出遭いから。そして彼を待ち受けていたのは、地獄とも呼べる日々だった……。『化物語』前日譚にして第零話、『傷物語』!! 西尾維新×大暮維人で贈るこれぞ新たな怪異! 怪異! 怪異! 旧懐で、終わるはずもない〈物語〉!
ポイント
- アクションシーン
- ストーリーの遅さ
- メタ要素
- 人間とサルの違い
アクションシーン
『傷物語』にはアクションシーンが多く、漫画『化物語』ではそれらが全面に押し出されています。特に阿良々木暦が忍野メメと出会うシーンは痺れます。またキスショットを狙う吸血鬼退治の専門家の中でも比較的出番の少ないギロチンカッターが漫画版では比較的優遇されて描かれているのもポイントが高いです。
ストーリーの遅さ
話の進展はスローペースです。第9巻では阿良々木暦が吸血鬼になり、吸血鬼の基本やメメとの出会いを経て最初の戦いに挑む直前で終わります。なぜなら羽川の視点を織り交ぜて『傷物語』の新解釈を試みようとしていますが、代わりにテンポが著しく落ちています。1巻につき1人の専門家との戦いが描かれ、最後の戦いとオチまで含めれば、次の4巻ほどはこの過去編に費やしそうな雰囲気さえあります。
メタ要素
<物語>シリーズに限らず西尾維新作品はメタ的な話が多く含まれていますが、第9巻にもその要素は健在です。特に「『風の谷のナウシカ』ノーパン問題」を取り上げ、忍野は「所詮 絵だろ」とコメントします。こういった問答を漫画で繰り広げてしまうところに皮肉が効いていますし、アニメでなされた忍や神原の議論も一掃してしまう面白さがあります。
人間とサルの違い
羽川翼とギロチンカッターとの会話において、「人間とサルとの違いは」と問われた羽川は「親指です」と答えます。親指の筋肉の存在の有無より人間は道具の扱いに長け、結果として本来誰かを傷つけた際の痛みを失った、というものです。これはやはり『傷物語』終盤への伏線であり、肉弾戦の多い<物語>シリーズ全般にも波及することです。一方、唯一の武器である「妖刀・心渡」の存在が際立つ結果になっています。
終わりに
基本的には原作小説か劇場アニメで『傷物語』を知っていることが前提の流れで、そこに漫画版の新しい視点を持ち込んでいるのは評価したいですが、色々と詰め込みすぎて元々あった思春期の痛々しさまでも薄れてしまっている印象です。マンガ的表現や構図も面白みはありますが、それも劇場アニメで結構描いたので、どうしても今更感が拭えません。現状でも読み続けてゆくのがやや大変ですが、次巻以降で盛り返してくれることを期待しています。
- 作者:大暮 維人
- 発売日: 2020/05/15
- メディア: コミック