AYUTANINATUYA

脱サラ・アラサー大学院生。日記と、趣味のゲーム・書籍・漫画などのサブカルを発信してます。

ライトノベル『ソードアート・オンライン24 ユナイタル・リングⅢ』書評感想

 

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 今回はライトノベル『ソードアート・オンライン24 ユナイタル・リングIII』を紹介します。川原礫による著作であり、イラストはabecが担当しています。2020年5月9日に電撃文庫より発売されました。

 

 

あらすじ

 総務省仮想課職員、菊岡誠二郎との再会。それはキリトとアスナ、アリスを、《大戦》から二百年後の《アンダーワールド》へといざなうものだった。
 再びあの世界へ降り立った彼らを待っていたのは、ロニエとティーゼの子孫であるローランネイとスティカ、そして。
「これが《星王》を名乗る男の心意か。――よろしく、キリト君」
《整合機士団》団長を名乗るその男は、かつてキリトが失った《彼》と同じ目をしていて――。
 一方、《ユナイタル・リング》世界では、キリトと仲間たちを狙う最大の《悪意》がついにその姿を現す!!

www.kadokawa.co.jp

 

ポイント

  • アンダーワールド再起
  • ユナイタル・リングの比較
  • 現実世界のナイフ

 

アンダーワールド再起

 物語の冒頭、主人公のキリトは総務省職員の菊岡と会い、以前ログインしていた仮想世界《アンダーワールド》(UW)の話を聞きます。そこは200年の時間加速が進み、かつ新たな侵入者が現れたとのことでした。
 本書の後半、UW出身の人工知能であるアリスと共にキリトはそこへ再ダイブを果たしますが、そこに待ち受けていたのは様々な新しい文化やアイテム、そして、かつての親友・ユージオに似た団長のエナラインでした。
 エナラインの描写は10ページにも満たずにキリトはUWからログアウトしてしまうので、彼が何者なのか、ストーリーとどう絡んでくるかはこれからといった雰囲気です。またUWの”機器革命”は、例えば久々にログインしてみたゲームの大幅なアップデートに近しい感覚であり、それらの文化様相の変化が忙しく描かれています。

 

ユナイタル・リングの比較

 いつもプレイしているVRゲームが突如として変貌を遂げたサバイバルMMORPG《ユナイタル・リング》(ユナリン)での冒険も少しずつ進んでいきます。前23巻にて拠点の基礎を作り上げたところ、一夜にして「キリトタウン」が完成してしまいました。今24巻では他の攻略プレイヤーと交流しつつもトラブルに巻き込まれ、やがて戦闘に発展してゆきます。
 拠点作りによりキャラクターの面々や必要アイテムが揃ってきたこともあり、ユナリンの”サバイバル感”はかなり薄くなってきて、良くも悪くも旧《ソードアート・オンライン》に似た緊張感があります。ただ本巻はユナリンのログイン時間そのものが少なく、ストーリーの進行具合も鈍くて殺風景な印象です。ただユナリン編から再登場してきた友人・アルゴが「ひと言で言えば《過剰》だナ」「ゲーマー的常識を挑発しているんだヨ」と評しているように、読みどころや振り返るべきポイントは散りばめられています。ゲームで”ゲームの外”を意識させてくる、興味深い内容だともいえます。

 

現実世界のナイフ

《アンダーワールド》から帰還して、《ユナイタル・リング》の急転も乗り越えたキリトたりは、現実世界で電車に乗ったりケーキを食べたりといった現実生活での時間もまったり流れます。こういった何気ないシーンとオンラインゲームとを対比することで、両方ともにストーリーが際立ってきます。
 注目したいのは、キリトの恋人であるアスナが引き出したナイフです。彼女は護身用に持ち歩いているようで、2人の昼食をシェアするシーンで登場してきました。よくよく考えると、いつもストーリーの終盤に引き抜かれるのは武器でした(「フェアリィ・ダンス」編の須郷のナイフ、「ファントム・バレット」編のデス・ガンの銃)。彼らにも守るべきものが増えたために手に取り始めたようですが、一般的には「チューホフの銃」のように、物語の序盤に登場する凶器はいつも危険な結果に終わります。しかし『ソードアート・オンライン』および《ユナイタル・リング》はオンラインゲームを題材とした近未来的立ち位置から、現実問題に対してどうエッジを効かせてゆくかにも期待したいです。

 

終わりに

《ユナイタル・リング》の話が一段落しつつ《アンダーワールド》が盛り返し、その合間に現実世界でのキリトたちの交流が挟まれるため、ストーリーがドラマティックといえばそれまでですが、場面転換が多くて読みにくい印象です。著者の他の仕事量(『アクセル。ワールド』シリーズや『絶対ナル孤独者』シリーズ)を鑑みても、UW編は『オルタナティブ ガンゲイル・オンライン』シリーズのように他の作家に主筆を任せた方が、メインシリーズもスピンオフ作品もより面白くなりそうなところを、すべてごちゃ混ぜにしてしまっているのが『ソードアート・オンライン24 ユナイタル・リングIII』です。まず完結が危ういと感じますし、物語の整合性をどう保ちつつ広めてゆくかに不安が残ります。ただ一方で、シリーズ新旧の”お祭り感”に溢れるのがユナリン編3冊目でした。「次巻ではたっぷりアンダーワールド編を書くつもり」というあとがきで、UW編の再考察への読解も試みたいところです。