AYUTANINATUYA

脱サラ・アラサー大学院生。日記と、趣味のゲーム・書籍・漫画などのサブカルを発信してます。

ランキング汚染

 

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 Amazonランキングが汚染されている。
 例えば村田沙耶香の『コンビニ人間』のような、人気・実力ともに備えた小説が読みたいとしよう。
 そういった書籍を探すときに、各種キーワード検索や売上ランキングを用いて、そこでの上位ヒットから見てゆくのが(真に読みたい本を当てられるかはさておき)比較的一般的な手法のように思う。ただ、Amazon Kindle(電子書籍)ランキングはKindle Unlimitedによる読み放題対象の数の圧力で埋め尽くされており、あとは昨今の新型コロナウィルス関連(ワクチン開発も事態収束もまだ先なのに、なぜか書籍は存在するのは興味深い)、そして漫画・ライトノベル・シリーズものが脇を固めていて、チャレンジ精神に満ちあふれた新作小説を探し出すのはことさら骨が折れる作業になっている。とりあえずKindleから紙の書籍にランキングを切り替えてみるが、今度はマーケティング戦略に勝利して売り逃げを計る書籍か、名作古典がずらりと並んでいる。やはりここでも見つけるのは簡単ではない。(そもそも収納スペースが無いので紙の本を買う気がなく徒労である。)インターネットがどれだけ高速化してもその終着点に意味がなければ無用の長物である。

 

 なぜこのような事態になっているかを考えるに、1つは検索機能や人気ソートが発達しすぎているようだ。
 例えば、デジタルガジェットの機器名の前には「iPhone対応」「USB3.0」「Bluetooth」といった単語がズラリと並んでおり、実際の品名は購入してから知る。ただこれは検索時代の中で「売れるため」に洗練されてきた商品命名法であり、製品開発者としては不本意だろうけれども責めることはできない。おそらく商品ページにできるだけ広範囲の検索メタデータが埋め込まれており、それに釣られてランキングに乗ることができているのだろう。中には商品そのものよりもメタデータへの注力を徹底する業者も存在するだろうし、それらでランキングが埋め尽くされると今度はユーザーの手に良質な商品が届かなくなり怒りの矛先はAmazonに向かうため、サイトは「除外検索」を用意してくるだろう。しかし売り手側は除外検索をさらに克服する手法を見つけつつあるようであるし、買い手側としてもメタデータや除外キーワードを意識するのは精神的負荷がかかる。ゆえにランキングは商品の質や満足度ではなく、数と大きさが支配的になってしまっているのだろう。

 

 ちなみに2020年5月頃にAmazonの詳細検索で、「本・コミック・雑誌 詳細検索」「ジャンル:文学・評論」「出版年月:2020年1月以降」「人気度」の条件で検索すると以下の結果が出る。

 

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『カレンの台所』
「なぜレシピ本が文学評論の1位なのか?」疑問に思う。商品詳細を見てみると、「新感覚レシピ文学」とあり、どうやら鶏の唐揚げのレシピに見栄えのよい写真と詩的な文章が組み合わさって文学に昇華しているらしい。2016年にはミュージシャンのボブ・ディランがノーベル文学賞を受賞したこともあり、もしかしたら、モデルのレシピが文学性を獲得して、”終身名誉ノーベル文学賞候補”の村上春樹の最新エッセイよりも人気であるかもしれない。いや、むしろこれが1つの現実である。

 

www.kinokuniya.co.jp

 一応、紀伊國屋書店ウェブストアで「分類:文芸」などの詳細検索をかけるとレシピ文学は抜け落ちるようだが、今度は書店側のキャンペーンで売りたいが明らかに売れてなさそうな書籍が挙がってきてしまう。ゆえに「脱Amazon」すればいいだけの話ではなく、一定の経済規模・ネット規模になると生じる問題のようである。これに対して文化的光明が差し込まれるのか、テクノロジーの進化が解決するのか。
 完璧なランキングなどといったものは存在しない。完璧な絶望が存在しないようにね。

 

カレンの台所

カレンの台所

  • 作者:滝沢カレン
  • 発売日: 2020/04/07
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

 

猫を棄てる 父親について語るとき

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