正統転化コミカライズ/漫画『エウレカセブンAO』回想
漫画『エウレカセブンAO』(2012~2013年・全5巻)を今更ながら読みました。オリジナルアニメ『エウレカセブンAO』の漫画版メディアミックスなのですが、そのストーリーの整理をいつかしたいなと、アニメを見た当時から思い抱いていました。ついでにアニメも何話か見直してみました。
今回の話はその個人的な回顧と想察になっています。
『エウレカセブンAO』あらすじ
新たなる神話、再び――。
『エウレカセブンAO』は2005年より放送された『交響詩篇エウレカセブン』の続編。2025年の沖縄に暮らす新主人公、少年アオの新たな物語が始まる。
前作『交響詩篇エウレカセブン』は、魅力的な世界観と斬新なロボット・アクション、そしてストレートなボーイ・ミーツ・ガールを描き、多くのファンを魅了して、ヒット作となった。そのムーブメントはアニメーションだけに留まらず、さまざまなメディアへと越境。2009年には劇場版『交響詩篇エウレカセブン ポケットが虹でいっぱい』が公開されヒットを記録した。
『エウレカセブンAO』は世界観やロボット・アクションなど前作の魅力を受け継ぎつつ、さらに新たなストーリーを紡ぎ出す。舞台は沖縄の離島・磐戸島。行方不明の母を求めるアオは、IFO(Intelligent Flying Object)のニルヴァーシュと偶然出会う。突如出現する謎の存在“スカブコーラル”がきっかけとなって巻き起こる天変地異が日常となった世界で、アオが対面する運命は、2012年の視聴者にとっても決して無縁ではない。
前作に引き続き監督は京田知己。キーキャラクターデザインの吉田健一、ニルヴァーシュデザインの河森正治、特技監督の村木靖など前作からのスタッフに加え、キャラクターデザインに織田広之が新たに参加している。
地上より永遠に至る、アオの物語が今始まる。
(『エウレカセブンAO』公式サイト・STORY・INTRODUCTIONより引用)
本作はアニメーション制作会社・BONESによる毎日放送・TBS系列にて2012年春から放送されたオリジナルアニメです。また前作『交響詩篇エウレカセブン』(2005~2006年)の続編という位置付けです。
前作では一万年後の地球が舞台でしたが、『エウレカセブンAO』の物語の始まりは、現実とは少し異なった、西暦2025年の沖縄です。また前作には主人公・レントンとヒロイン・エウレカの恋愛模様が全面に押し出されたが、本作では「親と子の絆」が大きなテーマの1つに挙がります。またSF・ロボット要素も多く取り込まれています。
漫画版『エウレカセブンAO』はどうなっているかといいますと、大まかなストーリーの流れはそのままで、細部が少し変更されています。順に説明しますと、
漫画版の各話タイトルはアニメ版のものがそのまま使用されている。(例えば「ステップ・イントゥ・ア・ワールド」。)しかしアニメは全24話、漫画は全20話である。アニメ版にはあって漫画版にはないタイトルは以下の4つ。
・シーズ・ア・レインボウ(アニメ第13話・アオとエウレカが再開する回)
・スターファイアー(アニメ第14話・エウレカが元の世界に帰る回)
・ドント・ルック・ダウン(アニメ第18話・フレアとエレナの友情回)
・ベター・デイズ・アヘッド(アニメ第20話・ゲネラシオン・ブル社脱出回)
漫画版に丸ごと描かれていないのは「ドント・ルック・ダウン」だけです。そもそも、漫画版はタイトルだけアニメと同じものを引用しているだけで、各話の内容は少しずつ削られていて、空いたスペースに本編が前倒しに挿入されています。(例えば、アニメでは第12話「ステップ・イントゥ・ア・ワールド」の最後でアオとエウレカは再会するが、漫画ではepisode:10「リリース・ユア・セルフ」の最後で再会する。)
では具体的に、アニメにはあるエピソードで漫画にはないものは以下の通り。
・幼少の頃のアオとエウレカの生活(10年前)の一部のエピソード
・歌手・ミラーが登場しない
・ニルヴァーシュとシークレットとの水中戦闘
・チーフ・イビチャのエピソード
・ナルの一部のエピソード
・エレナのエピソード
・エレナとエウレカとのエピソード
・フレアとエレナの友情エピソード(前述)
・ブラン社長がトゥルースを道連れしようとするシーン(エウレカが代役になる)
・ブル社脱出後のチーム・ハーレクインとの戦闘
個人的にアニメのエレナはあまり好きではなかったのですが、漫画ではちょっと癖のあるキャラに留まっています。他にはイビチャ、ブラン、エウレカ(一部)の個人話が無くなっているので、大人からの見方が少し弱くなっています。
反対に、トゥルースやレントンに関するエピソードは、アニメのものがそのまま漫画になっています。
さて、漫画版とアニメ版の本格的な感想について、正直なところ、漫画の方が好きです。そもそもアニメでは不可解なシーンや、難しい事柄の多すぎたところが、漫画では(尺の都合なのか)カットされていて分かりやすいです。そしてその省略によって、本来はその魅力を持っていた設定やキャラクター、特にナルにスポットがよく当たっているところが良いです。じつはエウレカとレントンには初めて産んだ女の子が居ました。その子は本来ならアオの姉になるはずだったのですが、トラパーのある世界では生きることができずに石のようになってしまいました。ナルはスカブコーラル(トラパー)と共生関係にあるので、実姉とは体質的に反対ですが、アオにとって姉のような性格であり、この設定の微妙な被りとズレがナルの魅力でした。アニメでは奇妙な行動も目立ったナルでしたが、漫画では正統的なヒロインになっています。
漫画『交響詩篇エウレカセブン』と漫画『エウレカセブンAO』との比較について、まず『交響詩篇』では片岡人生・近藤一馬の共著であり、『AO』は加藤雄一氏が作画を行っています。『交響詩篇』と比べて『AO』の方がデフォルメされた絵柄であり、コマ割りも簡単なものになっています。『交響詩篇』には多少あった特殊演出は『AO』にはないです。自分は『交響詩篇』の作画の方が好きです。
(漫画『エウレカセブンAO』第4巻・episode:14-15の標題紙。片岡人生・近藤一馬の『デッドマン・ワンダーランド』のタイポグラフィ標題紙のオマージュか?)
(『エウレカセブンAO』の設定・時系列?)
漫画というコンテンツから少し語りますと、まず『エウレカセブンAO』ではタイムトラベルや平行世界について描かれています。しかしそれらが理解しにくい特性をもっているのと、「クォーツガン」という時間や平行世界をすっかり改編する武器の存在によってより難しくなっています。しかしこれらの要素は図にすると少しは分かりやすくなるのですが、漫画『AO』ではそういった試みがなされていないのが謎です。確かに、解説絵が挿入されると『AO』のファンタジーな雰囲気が崩れてしまいますし、設定を1つに限定しない方が物語に広がりが持てる、という面もあるので何ともいえないです。
物語を見返してみると、親と子の絆や、人のエゴ、そして愛するものへの献身がしっかりと描かれている作品でした。それと気になるのが、レントンとエウレカがアオの出生を巡って旅立つシーンです。最終回の数話前に「『交響詩篇』のその後はどうなったか?」を描いた回が1話でも挟まっていれば、『AO』から見始めた人は取り残されてしまうかもしれませんが、往年のファンはさぞかし嬉しかったでしょうし、やっぱりその部分が欠けているので話がまとまりにくいのだと思います。
総じて、アニメ版の冗長なところをそぎ落とし、かつストーリーの軸とそれを支える人物を十分に表現した、正統派に上手く転化したコミカライズでした。
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