AYUTANINATUYA

脱サラ・アラサー大学院生。日記と、趣味のゲーム・書籍・漫画などのサブカルを発信してます。

『秒速』のアンサー・フィルム/映画『君の名は。』感想

 

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 映画『君の名は。』(2016年)を見まして、その感想を綴ります。

 

映画『君の名は。

 千年ぶりとなる彗星の来訪を一ヶ月後に控えた日本。山深い田舎町に暮らす女子校生・三葉は憂鬱な毎日を過ごしていた。町長である父の選挙運動に、家系の神社の古き風習。小さく狭い町で、周囲の目が余計に気になる年頃だけに、都会への憧れを強くするばかり。

「来世は東京のイケメン男子にしてくださーい!!!」

 そんなある日、自分が男の子になる夢を見る。見覚えのない部屋、見知らぬ友人、目の前に広がるのは東京の街並み。念願だった都会での生活を思いっきり満喫する三葉。

 一方、東京で暮らす男子高校生、瀧も、奇妙な夢を見た。行ったこともない山奥の街で、自分が女子高校生になっているのだ。繰り返される不思議な夢。そして、明らかに抜け落ちている、記憶と時間。

 二人は気づく「私/俺たち、入れ替わってる!?」

 いく度も入れ替わる身体とその生活に戸惑いながらも、現実を少しずつ受け止める瀧と三葉。残されたお互いのメモを通じて、時にケンカし、時に相手の人生を楽しみながら、状況を乗り切っていく。しかし、気持ちが打ち解けてきた矢先、突然入れ替わりが途切れてしまう。入れ替わりながら、同時に自分たちが特別に繋がっていたことに気付いた瀧は、三葉に会いに行こうと決心する。

「まだ会ったことのない君を、これから僕は探しに行く。」

 辿り着いた先には、意外な真実が待ち受けていた……。

 出会うことのない二人の出会い。運命の歯車が、いま動き出す。

(映画『君の名は。』公式サイト・STORYより引用)

「ポスト宮崎駿」を争うアニメ監督の最新作映画です。

 前置きとして、自分は新海誠ファンです。『秒速5センチメートル』から入って、『ほしのこえ』以降の長編作品はすべてチェックしています。また小説『君の名は。』も読了済みです(映画版の感想・批評はこの日まであまり見ないようにしてきました)。

 

 ちなみに公開から10日目の、日曜日の昼過ぎに映画館へ足を運びましたが、500人ほど収容できそうなスクリーンが満席でした。客層は10~20代の男女半々くらいで、(主観的な印象ですが)アニメ映画や新海映画と“意識していない”、普通のエンタメ映画を観る感覚で入館していそうな人が多かったです。

 

秒速5センチメートル』のアンサー・フィルム

 率直な感想を述べると、『秒速5センチメートル』のアンサー・フィルムだと思いました。

『秒速』は2007年公開の映画であり、その結末を端的にいうなら「初恋が実らずに終わる」というものです。見た人はとても切ない気持ちになるのではないでしょうか。

 そして、10年近くの歳月を経ての『君の名は。』のモノローグでは、

ずっと何かを、探している。

と語られます。自分はこの“何か”を「『秒速』のハッピーエンド」と当てはめました。

 他にも『君の名は。』のテーマの1つとして「時間の隔たり」が挙げられます。これは『秒速』から『君の名は。』までの9年間をメタ的に表していると思いました。

 

「初恋が実らない」のが世の常だとしても、やっぱり『秒速』の結末は悲しいじゃないですか。そういった「叶わない現実」を受け入れられず、ずっとその場に留まっている人たち(自分を含む)に対して、『君の名は。』は返信メッセージのように感じました。

 その象徴が、このセリフです。

言おうと思ったんだ。お前が世界のどこにいても、俺が必ず、もう一度逢いに行くって。

『秒速』の主人公・遠野は、恋愛に少なからず受け身でした。確かに小学生の頃は電車を乗り継いでヒロイン・明里のところまで出向きますが、それっきりです。高校生になっても、大人になっても、慕う気持ちは強固なのに、逢いに行こうとしません。

 対して、『君の名は。』の主人公・瀧は、積極的にヒロイン・三葉へ逢いに行きます。飛騨への旅は『秒速』と同等だとカウントしても、ノートに落書きしたり、身体にマジックペンで書き置き、そもそも身体が入れ替わったりと、三葉へのアプローチの質と量が高いです。

 その結果、行動の原動力となる記憶がなくなっても、(ベタな表現だが)運命で結ばれていたために再会することができます。

 

 瀧は三葉に対する記憶を失い、その後の生活でも違和感を覚えつつ過ごす、というなかなかな大変な経験をします。にもかかわらず、最終シーンで三葉と“再開するだけ”というのはかなり残酷な仕打ちだと思いますが、『秒速』と比べれば「ようやく報われた」幸福感が溢れました。

 

 以下、細かい雑感です。

  • 序盤の、三葉と瀧が入れ替わりに気づくまでのシーンは退屈ですけど、その分「前前前世」で鬱憤が炸裂する感じが最高でした。
  • RADWIMPSの曲はよかったですね。特に挿入歌の第一声には惹きつけられました。
  • 説明セリフがかなり多いのが残念でした。それと独り言の説明セリフを喋っている口元をカメラが写すので、「こいつ大丈夫か?」みたいな警戒心を抱かざるを得ないのも残念でした。
  • 三葉を探して飛騨に行くシーンは、小説版だと少し退屈だったのですが、映画では旅行の場面が映えてとてもワクワクしました。聖地巡礼したくなるのも納得です。
  • ご神体のクレーター(大きすぎ)で瀧と三葉が再会するシーンも、小説より映画の方がずっと分かりやすいです。
  • 低アングルでの扉の開閉シーンや、指先でページの文字を追う動き、いつも電車の扉際に居るキャラクター、意味深な建物の短いカットは「まさしく新海!」という印象を受けました。
  • でも所々、三葉がつまずいて転ぶシーンは『時をかける少女』、隕石が地上に落下するシーンは『サマーウォーズ』、森の中を駆けるシーンは『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』を思い浮かべました。「新海映画の最高傑作だ!」と監督だけを持ち上げるのではなくて、今までのアニメの積み重ねに対して感慨に耽るべきだと思います。

 

君の名は。』は公開10日で累計興収38億円を記録しました。これだけ大きなお金が動くと、今後は『秒速』や『言の葉の庭』のようなしっとりした映画は作りにくく、どうしてもエンタメ寄りの話になってしまうかもしれませんが、ぜひ次回作でも(自分を含めた)世界中の人たちに恋をさせてほしいです。

 

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