海猫沢めろんによる新書『明日、機械がヒトになる ルポ最新科学』を読み終えまして、その感想をまとめてみます。
海猫沢めろん
名前 海猫沢 めろん(うみねこざわ めろん)
職業 文筆業
生年月日 1975年3月14日 大阪生まれ
血液型 A型 魚座
高校卒業後、紆余曲折を経て上京。文筆業に。『左巻キ式ラストリゾート』でデビュー。『愛についての感じ』で第33回野間文芸新人賞候補。他に『零式』、『全滅脳フューチャー!!!』、『ニコニコ時給800円』 などがある。
(「海猫沢めろん.com・プロフィール」より引用)
明日、機械がヒトになる ルポ最新科学
発売日 : 2016年05月17日定価 : 本体840円(税別)
テクノロジーはぼくたちの想像力を超えはじめている――AI(人工知能)、ヒューマノイド、3Dプリンタ、センサーテクノロジーなど、現在進化しているテクノロジーには、「人間」や「知性」の意味を変えてしまうほどの可能性が秘められています。
機械はどこまで人間の領域に進出するのか、ときには人間を凌駕していくのか。
小説家・海猫沢めろんが最先端の研究を行う7人の科学者を訪ね、「人間化する機械」と「機械化する人間」、その両方がぶつかり合う境界を見つめ、「人間」について考えます。
cakesで連載された科学ルポを書籍化。「人間」の定義が揺らぐ今、知っておきたい科学の最前線が1冊で分かります。
第一章 SR――虚構を現実にする技術
第二章 3Dプリンタ――それは四次元ポケット
第三章 アンドロイド――機械はすべて人型になる
第四章 AI(人工知能)――機械は知性を持つか
第五章 ヒューマンビッグデータ――人間を法則化する
第六章 BMI――機械で人を治療する
第七章 幸福学――幸せの定理を探る
(「講談社BOOK倶楽部」より引用)
ここ5年くらいの最新テクノロジーについて、インタビュー形式で紹介しており、またそこから来る、人と機械の流れの変化に注目した内容になっています。個々のトピックにおいて、技術・経済・産業の考察もしてはいますが、どちらかといえば「ヒトと機械の境界」といった思想哲学の色合いが濃いです。なので「この一冊で自分自身のテクノロジー知識をアップデートしよう!」と期待して読むよりは、「最新技術で私たちはどうなってゆくのだろう?」と思い考えながら読み進めた方がいいと思います。
率直な感想として、分かる人には分かる本だと感じました。「ここに表されている思想――ないしそれに類似した思想――をすでに自ら考えたことのある人にだけ理解されるだろう」(ウィトゲンシュタイン『論理哲学論考』[岩波文庫・野矢茂樹訳])ということです。やっぱり普通の人たちは、自分自身を人間だと思って過ごしていますし、「あなたはロボットだよ」と他人からいわれたところで頷くことはありません。しかし本書は「人間/非人間の条件を探る」というテーマであり、「もしかしたら自分はロボットかもしれない」という疑問を抱かなければ、各インタビューを深く読み取るのは難しいと思います。
自分は人と機械に境界はないと考えているので、対談を読んでいると共感できる事柄も多く、とても楽しく読めました。あとは研究者の中にはずいぶん異色な経歴を持っている方も居て(インタビュアーもそうだが)、誰でもどこでも熱意さえあれば、物事を突き詰められる気がしてきました。
あとは3Dプリンタやアンドロイドが当たり前にある日常を想定していますが、それほど技術開発は上手くゆかないと思います。例えば3Dプリンタでは、「3Dプリンタそのものが作れるくらいに何でも出力できる未来」を本書では想定しているようですが、現実問題として難しいと思います。確かにプラスチック類はまだ可能かもしれませんが、金属やセラミックス材料などは作るのに高熱が必要であり、またその高熱を保ったまま「どう印刷するか」がさらに困難なところです。将来、技術・経済面で不利なので3Dプリンタはプラスチックプリンタに留まるかもしれません。もちろん、3Dプリンタそのものがプラスチックのみで作られる可能性もあります。確かに本インタビューで最先端技術研究者の考えが垣間見えるのは面白いですが、現状技術の課題点についても解説すべきだと思いました。
SF好きにはたまらない一冊です。また理工系の進路に悩む高校生が読むと、内容の全てを理解するのは難しいかもしれませんが、夢が持てるはずです。