AYUTANINATUYA

脱サラ・アラサー大学院生。日記と、趣味のゲーム・書籍・漫画などのサブカルを発信してます。

限界研『プレイヤーはどこへ行くのか デジタルゲームへの批評的接近』感想

 

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 限界研による評論書『プレイヤーはどこへ行くのか デジタルゲームへの批評的接近』を読み終えまして、その感想を綴ります。

 

あらすじ

 デジタルゲームというメディア固有の体験は我々の世界観をどのように変えるものなのか。物語や表現を分析する従来の批評の枠組みだけでは、ゲームとは何かを論じることは容易ではない。インタラクティブ性に代表されるゲームの特質を解読するため、これまでにない視点を開拓した新時代の評論集。
(南雲堂より引用)

www.nanun-do.co.jp

 2010年代のデジタルゲーム(テレビゲーム・PCゲーム・スマートフォンゲーム・パチンコゲーム)とその周辺環境(VTuber・MOD・ゲーミフィケーション)を扱った論評集です。総勢11名の寄稿から成っており、以下のゲームについて言及されています。

言及ゲームリスト

ゼルダの伝説BotW
アズールレーン
Cuphead
人生オワタの大冒険
PUBG
フォートナイト
Cookie Clicker
おさわり探偵 なめこ栽培キット
ソードアートオンライン
Dead by Daylight
Dota 2
Vitural Vitural Reality
FaceRig
艦これ
CRフィーバー戦姫絶唱シンフォギア
スーパーマリオブラザーズ
Nintendo Labo
Press X to Not Die
モンスト
ポケモンGO
CRフランダースの犬と世界名作劇場FVW
Half-Life
IFA2018
Doki Doiki Literature Club!
メタルギアソリッド4
PRY
モンスターハンター
HEAVY RAIN
ドラクエ
ツムツム
Papers, Please
ストレンジャー・ジンクス
ゼノブレイド
FGO
ポケモンスナップ
Gone Home
CITY ADVENTURE タッチ MYSTERY OF TRIANGLE
パズドラ
Undertale
ニーアオートマタ
DayZ
Achievement Unlocked
Crush Crush
Minecraft
STEINS;GATE
Bioshock Infinite
MYST
ポケモン
休むな!8分音符ちゃん
Indie Game: The Movie
Dishonored
キングダムハーツ
MOTHER
CR牙狼GOLDSTORM翔
The Elder Scrolls Ⅳ: Oblivion
たけしの挑戦状
177,000 ACHIEVEMENTS
Counter-Strike

主感想

 考えさせられるものも、心底どうでもいいものもありました。
 16の批評がまとめられていますが、中でも藤田祥平氏による「バトル・ロイヤル形式が抱えているルール上の問題点とその解決法について」は、近年の流行を極める『PUBG』(PLAYERUNKNOWN'S BATTLEGROUNDS)および『フォートナイト』について、プレイヤーがそれとなく感じていたことをうまく掬い上げて、かつどうあるべきかを説いている良質な批評です。簡単にまとめると、『PUBG』はつまるところ「運ゲー」なので真剣に向き合うのは馬鹿馬鹿しいが、『フォートナイト』は戦闘に勝利するメリットがしっかり設けられているのでワンランク上のゲームだと主張しています。いわゆる「ガチ勢」といいますか、プロゲーマーやe-sportsのレベルで考えるとそうなのかもしれません。ですが、『PUBG』は時と場合によっては初心者でも熟練者を倒せる大逆転的展開、あるいは何が起こるか分からない緊張感を生み出すことができるので、一概に優劣は付けられないのではないかと考えます。とはいえ、ゲームデザインや考えを整理して、個々人がより楽しくゲームを遊べるよう導くのに適した読み物でした。
 また、北川瞳氏の「自律する<増分>と<育成>のゲーム――放置ゲーム論」は『なめこ栽培キット』を始めとする「放置ゲーム」の変遷について論じています。自分は放置ゲームをほとんどプレイした経験がなく、またゲームについても「放置する=辞める」という図式しか持っていなかったために目から鱗の論評でした。自らが未体験のゲーム領域を広げてくれる、ちょっとした興味や理解を持たせてくれるパートがたくさんありました。

 読んでいてがっかりした部分について。
 草野原々氏の「デジタルゲームのむなしさと人生のむなしさ」は、仮にあるゲームをクリアしたり対戦で勝利したり、それらは現実世界でなんの役にも立たないという、この本を読むまでもなく当たり前なことを説いている章です。近年ではeスポーツの台頭により、ゲームの上手さが人生の豊かさに繋がるようになってきたものの、やはりそれは脳が作り出す虚構に過ぎない、という至極当然のことを書いています。eスポーツの人気にあやかり、現代の中高生には「プロゲーマーになるため」と勉学や運動を疎かにしてゲームに勤しんでいる輩も居るそうですが、そういった問題に適切な対処が取れるよう、建設的で噛み砕いた内容なら価値があったと思います。
 小森健太朗氏の「21世紀版「もの」への問い――「艦これ」と「FGO」を通して」は、課金という行為に対してハイデッガーを引用しては話をややこしくしているだけです。プレイヤーが「艦娘」や「サーヴァント」に対して愛着を抱くのは、運営がただ低排出率や高必要経験値を設定しているからであって、デジタルデータか否か、死ぬかどうかに由来するわけではないと考えます。この論評ではむしろ「艦これ」の同人的な「小さな物語」や「FGO」の公式的な「大きな物語」がなぜバーチャル的な存在から生まれるかの議論を進めてほしかったです。

その他感想

 各論評間のまとまりが弱く、何について書かれているのかわからなくなるときが時々ありました。出版経緯を追うことができませんでしたが、雑誌等への寄稿をまとめたものであって『プレどこ』のため、あるいは連載企画ではなく、よさげなものをかき集めただけなので流れが悪いです。今やとてつもなく大きくなったゲームの世界を語るには、前評論を受けての視点転換や実際のアウトプットによる相乗効果が必須だと思うのですが、そういったものはほとんどなかったです。
 また、上記に「言及ゲームリスト」を挙げましたが、本書でしっかり取り上げられているものは20タイトル程度であり、あとは「論評内容の例として挙げているだけ」という状況です。本書を手に取る人数は減ってしまうかもしれませんが、より深い議論をするためにもタイトル数は絞るべきだったと思います。
 関連して、本書は国産大物タイトルから海外インディーズに加えて、パチンコやVTuber、ゲーミフィケーションといった分野まで言論を広げています。しかしながら、10年代の日本は未だ労働から解放されているとは言いがたく、取り上げられているタイトルの半分を実際に触ってみたり、あるいは”動画勢”であることさえ難しいのではないでしょうか。そういった読者が未知のゲームに対して言葉での説明を進めていくのですが、やはり想像に難しい部分もあります。構成の都合もあったでしょうが、ゲーム画面があれば多少なりとも各論評がより理解しやすくなったと思います。そういったサポートは、今まさにトレンドのゲームをプレイしている中高生が解するためにも必要な手助けだと思います。
 一方で、10年代でも重要な位置を占めていたはずのVRゲームやアーケードゲーム、そしてゲーム実況やダウンロードコンテンツといった周辺環境への言及が少なすぎます。この内容で10年代を結節点と呼べるのか疑問が残ります。

まとめ

 じつは自分自身、最近のゲームは本質的に全然面白くないと考えています。ゲームが楽しいと思うのはゲームの中身の進化ではなくて、単にゲームハードのスペックが向上して機能性や表現力が底上げされたのと、オンラインで誰かと協力したり競ったり変わった遊び方ができるようになったりしただけだと思っています。ですが、そういったところに個々人が意味を与えるのは大切なことだと考えていて、それゆえ『プレどこ』のような評論集を読むことができ、これが波及的に広がって面白いレビューが投稿される、そして新たなゲーマーが生まれるといったサイクルは必要だと思います。あるゲームを評するとき、ストーリーとかグラフィックとかキャラクターとか音楽とかUIとかバグとかゲームバランスとかオンライン環境とか運要素とかガチャ確率とか、様々な側面から人は評価を下しますけど、それらよりもメーカーの意図を汲み取り、ゲームプレイヤーとしてどうあるべきかを示してくれる、価値ある一冊だと思います。

参考

  • 【ゲーム批評の現在地】第1回:ゲーム/批評

www.gamespark.jp

 ゲーム批評の批評についての記事です。

  • さやわか『僕たちのゲーム史』星海社(星海社新書)2012年

 ゼロ年代までのゲーム史をまとめた一冊。『プレどこ』でも取り上げられています。