AYUTANINATUYA

脱サラ・アラサー大学院生。日記と、趣味のゲーム・書籍・漫画などのサブカルを発信してます。

アニメ『クジラの子らは砂上に歌う』感想

 

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 アニメ『クジラの子らは砂上に歌う』(2017年秋)を見終えまして、感想を綴ります。

 

アニメ『クジラの子らは砂上に歌う』あらすじ

果てのない世界に、祈りの砂詞が鳴り響く

豪華スタッフにより紡がれる、鮮烈の群像ハイファンタジー

砂刑歴93年――
砂の海に覆われた世界の中、小島のような漂白船「泥クジラ」の上で暮らす人々がいた。外海との接触がまったく無いこの島の人口は513人。感情を源とする超能力“情念動(サイミア)”を生ウする代わりに短命な「印(シルシ)」と、能力を持たないが長命の「無印(むいん)」という種族からなる彼らは、小さな共同体を形成し穏やかに過ごしていたのである。島の記録係である「印」のチャクロは、あるひ「泥クジラ」に漂着した廃墟船を調査する中で、謎の少女”リコス”と出会う。島の人間にとって、初めてとなる外海の人間との接触。それは、新世界を開く福音なのか―。
梅田阿比による同盟の人気漫画(秋田書店「月間ミステリーポニータ」連載)を、監督:イシグロキョウヘイ×アニメーション制作:J.C.STAFFのタッグでアニメ化。砂に包まれた世界を舞台に、少年少女たちの”感情”と”命”の記録が紐解かれる。

kujisuna-anime.com

 漫画原作による、架空の小さな島を舞台としたファンタジーアニメです。島の記録係である少年が、ふとした偶然から異国の少女と出会い、様々な争いに巻き込まれながらもそれらを乗り越えてゆくボーイ・ミーツ・ガールでもあります。
 個人的にハイファンタジーはあまり好きではないのですが、PVを観た時の絵の綺麗さに惹かれて視聴しました。後に原作漫画も既刊10巻まで読破しました。

 

数的評価

(各項目:5.0満点)
物語:2.0
作画:3.5
声優:3.5
音楽:3.0
キャラクター:2.0

 

詳細感想

 2クール(二十数話)あればもっとよくなる惜しい内容でした。
 アニメの絵の緻密さに騙されやすいですが、物語の主軸は基本的に、登場人物たちが戦いで死んだり残酷な真実に悲しんだりするダークな感じになっています。そしてその平和な日常から混乱の舞台へのコントラストを大きくするには双方の描写のバランスが重要だと思うのですが、『クジラの子らは砂上に歌う』(以下『クジラの子』)はあまりにも戦いの場面を描きすぎています。なので、物語の起伏を感じ取りにくいですし、観ていてずっと気分が沈んだままです。超能力・漂流船・外海といったファンタジー要素はしっかり練り込まれているので、あとはその配分に気を付けていれば名作になり得たと思いました。

 

物語

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『クジラの子』をはじめとする“ユートピアもの”は最初の世界観の説明が特に大切です。それは本作品の舞台が現実の日本や世界とどこまで異なるのかの認識を共有してこそ、その後のストーリーが理解できるようになり楽しめるようになるからです。しかし『クジラの子』では説明を語り手・チャクロが駆け足で行うがために内容が頭の中に入りにくくなっています。漫画だと読者のペースでペーシをめくったり、わからなかったら前に戻ったりするということができます。しかしアニメだと否応なしに話は進んでゆきますし、その脚本は少しそのペースを早くしすぎたように思います。ストーリーそのものは喜怒哀楽の豊かな物語です。放送では尺(話数)の都合もあったかと予想できるので、総じて今一歩なアニメでした。

 

作画

 作画に関してはハイレベルです。まずJ.C.STAFFにより丁寧です。そして水彩画調の柔らかな明るさで、冒頭の映像を見ただけで楽しそうな雰囲気が伝わってきます(ゆえにそこからの騒乱との落差が際立つ仕組みになっている)。女性にも好まれ易そうな感じはありますが、一方で絵の調子が明る過ぎるために残酷・非情なストーリー展開が起きてもその悲惨さが伝わりにくいという欠点も抱えていました。
 超能力により道具を自在に操れるという設定なのですが、その操作は単純に剣を振ったり銃を撃ったりするだけとアクション作画は控えめでした。激しく動く超能力バトルも見てみたかったです。

 

声優

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 声優もよい配役だといえます。語り部・チャクロ(花江夏樹)のモノローグ(独白)はとても手馴れています。独り言であり説明調であるので、普通の独白には読み上げの起伏が少ないのですが、チャクロのどことなく感情が滲み出る雰囲気がとてもよかったです。
 個人的に賛否両論なのはヒロイン・リコス(石見舞菜香)です。声質は役に合っていますし聞いていて心地よいです。一方でリコスは最初、感情を失っていたという設定で、作中の出来事を通じて次第に感情を取り戻してゆくという流れなのですが、アニメではリコスがチャクロと出会って1,2話で十分な感情を取り戻しているように聞こえます。もう少し初登場を無感情にするか、感情の起伏をより後半で大きくしていった方がよかったと思います。
 自警団団長・シュアンを神谷浩史が演じていますが、言葉数は少なく、また(アニメ版の)物語において重要な役割を持つキャラクターでもないので、この辺りにもったいなさを感じました。

 

音楽

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 音楽に関しては平均より少し上のレベルだと感じます。テーマ曲は少し印象に残りにくいですが程よくまとまっており、第7~8話の挿入歌も戦火の混乱をしっかり表現しています。オープニングテーマ『その未来へ』・エンディングテーマ『ハシタイロ』は両曲とも『クジラの子』の世界観に合わせてあります。アニソンという枠を飛び出すほど優れてはいませんが、アニメを盛り上げる役目は十分に果たしていると感じました。

 

キャラクター

 キャラクターは少し残念です。チャクロやリコスはどこかテンプレートな感じが抜けないですし、チャクロの幼なじみ・サミ、首長・スオウ、強力なサイミア使い・オウニの描き方も基本的には“上げて落とす”で、特別な感じはないです。もう少し過激でかつ共感も得られるような感じか、2面性をもつキャラクターに仕上げるべきだったと思います。
 話数が少ないのに登場キャラクターは減っていないので、その分だけ各キャラを映す時間が減り、結果として大多数のキャラクターの魅力が薄くなってしまっています。

 

 その他に言及するなら、戦闘シーンのテンポが悪かったです。まず漫画のコマ割りをきっちり再現するかのように、様々な角度からキャラクターを映すだけで行動しないシーンがありました。帝国軍の兵士が律儀に泥クジラ側の人間の動きを待つだけの場面も散見され、「これ本当に戦争しているのか?」という違和感を覚えました。
 帝国との戦争(第1~9話)までは原作漫画をかなり忠実に再現していますが、連合王国の船と会って以降は一部のストーリーを省略しています。またカットしたところで最終話の端切れも悪く、オウニの"デモナス”についても謎なままに終わります。原作が連載中で結末がわからず、そして残り少ない話数ならば、終盤はオリジナルストーリーを展開する方がよかったと思います。

 厳しくいえば、雰囲気だけのアニメでした。