AYUTANINATUYA

脱サラ大学院生(20代)。愛知県在住。日記と、趣味のゲーム・書籍・漫画などのサブカルを発信してます。ニコニコ生放送にてよく投稿記事を生執筆している。

新書『人工知能とは』感想

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 人工知能学会監修による新書『人工知能とは』を読みまして、感想を綴ります。
 

人工知能とは・あらすじ

 本書は、2013年1月から2015年1月の全13回にわたって、人工知能学会誌『人工知能』に掲載されたものを修正した上でまとめたものです。学会誌では、学会員に対して、さまざまな新しいトピックや異分野のトピックを伝える「レクチャーシリーズ」という連載を行ってきましたが、人工知能が広く社会に認知され広がっていく状況を踏まえて、「人工知能とは何か」という、自らの再定義を試みるようなテーマを企画しました。人工知能分野を代表する研究者13人が、「人工知能とは何か」の再定義を行い、それをふまえて、各研究について一般読者に伝わるように解説しています。13人の紙面上でのキャッチボールをお楽しみ下さい。
人工知能学会より引用)

 

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 SF映画とかで人工知能に興味を持っていたところ、大学の図書館でポップな表紙の人工知能学会誌を見つけてしまいました。それをパラパラめくっているうちに当連載企画を読むようになってしまい、編纂されて書籍化されたのでもう1度手に取ってみました。
 13人の研究者が執筆に関わっていますが、中でも編著の松尾豊は角川EPUB選書『人工知能は人間を超えるか ディープラーニングの先にあるもの』(技術書・ビジネス書大賞2016受賞)の著者でもあり、先生による「はじめに」のガイドと各著者の紹介文によって内容を分かりやすくさせています。
 
 本著は2013年1月から2015年1月にわたって連載されたものであり、人工知能分野の成果は日進月歩なので、内容と現在(2017年)でやや乖離している部分があります。大学入試問題の自動解答を目指す「東ロボくん」は東大合格を諦めました。コンピュータ囲碁プログラムの「AlphaGo」は、連載開始時はその名前すらなかったかもしれませんが、編纂中にはプロ囲碁棋士に勝利し、そして現在では世界トップ棋士に勝利したことで引退しています。
 
 人工知能研究は急速に発展してゆくので、その時々のトピックスだけを追っても十分に理解することはできません。その点、『人工知能とは』は基礎的なレベルからはじまり、ある意味で自分に似合う人工知能の考え方を取捨選択できる構成になっています。なので「人工知能に興味があるけれど、どの本を手に取ればいいのかわからない」人にはお勧めとなっています。

 

感想

 本書は「人工知能とは?」「知能とは?」「意志とは?」という一種の哲学的な疑問から始まり、ある人は人工知能開発に向けての技術的な話題にシフトし、またある人は人工知能が現れた際の一般人への文化・生活への影響について語る方向へ移ってゆきます。
 読んでいて面白いのは、執筆している研究者でもわかっていないことが多い、ということが伝わってくるところです。「知能」とは問題対応力や自己保存性を含む個人的なものなのか、インターネットのような社会的・集団的な情報総体なのか、この事柄だけでも分かれています。そしてタイトルにもなっている「人工知能」についても、人間や、人間の脳に限りなく近いもの、と答える人もいれば、コンピュータ・プログラムが進化した、構成的に人間とは異なるが機能的に人間と同じことができるもの、と答える人もいます。主張の割合はほとんど半々ですし、その対比がとても面白くて知的好奇心をそそられます。
 個人的には第4章「人間頭脳の働きをどこまでシミュレートできるか」 (長尾真) のように、人とロボットの対比で語られた方が理解しやすいと思います。読んでみると、人は複雑なことをとても簡単に機能させているという、言われてみれば当たり前のことを改めて認識させられます。そして「私」というものを想定することでロボットや人工知能に対してどう向き合えばいいのか、という回答を得やすくなっている章だと思います。
 
 少し残念なところは、1人あたりに割ける紙幅が少なく、興味あるものでもやや尻切れに内容が終わってしまっているところです。それと自分の場合は松尾先生の『人工知能は人間を―』を先に読了しており、先生の章はその内容とほとんど重複する内容だったので、そこで新しく得るものがほとんどなかったです。人工知能について精通している人であればあるほど読む価値は下がってゆくと思います。
 それとビジネスについて。正直にいって、明日の企画案や来るべきビジネスチャンスなど、即時経済的な内容は薄くなっています。そういった目的は週刊誌や新聞社の経済書に譲ることになりますが、実際に人工知能開発をしよう、または人工知能分野に投資をしよう、という場面に移る際に、人工知能のバックグラウンドを知るためや、同じ計画を支える人たちを説得するために本書はとても役立つのではないかと考えています。
 
 
 もう少し欲をいえば、ロボット工学者の石黒浩先生にも執筆に参加してほしかったです。本著でも「メカ」、「ロボット」、「アンドロイド」といったキーワードについて語られていますが、石黒先生ならばそれらをより魅力的に伝えてくれた気がします。確かに石黒先生の専門はロボットで、人工知能の中心部的な研究ではないようにも思えますが、本書の企画からしてより多角的な内容があればよかったです。
 

最後に

 人工知能に少しでも興味のある人ならばぜひ読んでほしいです。基本的にはものづくりを好む理系にお勧めです。それと近い将来に人工知能が浸透すると考えられる、社会インフラや医療・介護関係の仕事に従事する人が読むと、いいアイデアが浮かんだり、いざ人工知能システムが導入される際に障壁が低くなるかもしれません。論文や学術書というよりも、ビジネス書と捉えて読み進める方がいいと思います。
 
人工知能とは (監修:人工知能学会)

人工知能とは (監修:人工知能学会)