AYUTANINATUYA

脱サラ・アラサー大学院生。日記と、趣味のゲーム・書籍・漫画などのサブカルを発信してます。

面倒な理論をすっ飛ばせる/アニメ『僕だけがいない街』感想

 

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 2016年1月から放送されていたアニメ『僕だけがいない街』全12話を観終えたので、遅れながら感想を綴ろうかと思います。

 

 まず当アニメのあらすじについて。

 漫画家としてデビューするも、いまひとつ結果を出せずに毎日を過ごす青年・藤沼悟。彼は、彼の身にしか起こらない、ある不可思議な現象に不満を感じていた。

――リバイバル(再上映)

 何か「悪い事」が起こる直前まで時が巻き戻る現象。それは、その原因が取り除かれるまで何度も繰り返される。……まるで、誰かに「お前が防げ」と強制されているかのように。

 しかし、ある日起きた事件をきっかけに、その現象に大きな変化が訪れる。

 自らの過去に向き合う時、悟が目撃する真実とは?

 そして、悟の未来は――?

(『僕だけがいない街』・あらすじより引用)

 本作品は三部けいによる漫画を元にした、タイムスリップミステリーです。リバイバル(再上映)という時間逆行ができる主人公・藤沼悟は、ふとしたことから18年前の誘拐事件を思い出します。そして帰宅すると母親が殺されており、逃げ出して気づいたら、昭和63年の北海道に戻ってしまいました。そこで誘拐事件の解決が18年後の殺人防止につながると考え、解決に奔走する、というストーリーです。

 

 ネタバレは極力避ける方向で話を進めます。

 まず感想として、音の表現がいいですね。作中で悟は29歳と11歳を行き来しますが、その声優の使い分け(青年:満島真之介、小学生:土屋太鳳)は、どちらの立場から喋っているのか分かりやすいですし、アニメらしさが全面に出ていて好きな演出です。それとリバイバルのシーンは必ず音割れすることからも、悟がタイムトラベルに対して否定的な感情を持っていることが実感できます。

 それに誘拐に巻き込まれる加代を助ける方法には、大人らしい計画性があるところも興味深いです。誘拐事件を阻止するなら張り込んで現場を押さえる、ではなくて、加代と仲良くなって、周りから情報を集めて、冤罪を被せられる人を遠ざけて、というのはとても戦略的で、まだ見ぬ真犯人と駆け引きしているような面白さが味わえます。

 

 一方、キャラクターの性格の描き方は一面的であり、少し魅力に欠けていたと感じました。ある人は優しくて、ある人は自分勝手で、といった場当たり的な描写が多い気がします。しかしタイムスリップミステリーという物語上、謎の究明に尺を使う必要があるので仕方のないことかもしれません。

 全体的な作画について。個人的にはキャラクターデザインがあまり好みではないのですが、キャラクターの仕草や背景は細かく描かれていてよかったです。ただそれにもう1つ注文するなら、第6話の「死神」のシーン(悟が考えた漫画の話、予定を間違えて子供を死なせてしまった死神の話)のように、もっとホラー感を持った、攻めた映像表現が他にも数シーンあってもよかったと思います。

 

 それと言及しておかなければならないのが、「リバイバル」の仕組みについてです。まず1回目のリバイバルで記憶のみ引き継いで身体は子供の状態になっていることから、これは本人の肉体と精神の両方を伴ってタイムスリップするのではなく、過去の自分に情報だけが入り込む種類のものとなっています。そしてその過去で行動を起こしたところ、自分の知っている未来とは異なる結果が得られます。しかし、一度起きた事柄は変更不可能(時間不可逆性)なので、つまり悟は「別世界の過去の自分にタイムスリップしている」ということになり、多元世界構造になっています。

 ……という、面倒な理論をすっ飛ばせるくらいに、本筋の誘拐事件の謎と、それに対する悟の奮闘が魅力的なところが優れている点だと感じます。

 

 ミステリーという特性のために語りづらいですが、ストーリー・キャラクター・映像・演出・音楽のどれをとっても平均以上であり、良質にまとまっています。そして第10話の特殊OPに、謎を深めるようでもあり芸術作品のようでもあるEDと、注目すべきポイントがたくさんあるアニメです。