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AYUTANINATUYA

20代の工場作業員だってこんなことを考えている

フィリップ・K・ディックのおすすめ短編

Book

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 大森望の編纂によるフィリップ・K・ディック短篇傑作選(全6弾)を読み終えたので、その紹介とおすすめ短篇を綴ります。

 

Philip Kindred Dick

 SF小説家。「高い城の男」ヒューゴー賞(1962)、「流れよ我が涙、と警官は言った」ジョン・W・キャンベル記念賞(1975)、「高い城の男」ローカス賞(1975)などの受賞歴がある。53歳の時に脳卒中で生涯を終えた後も、「ブレードランナー」(原題・アンドロイドは電気羊の夢を見るか?)、「トータル・リコール」(原題・追憶売ります)、「マイノリティ・リポート」(原題・少数報告)、「スキャナー・ダークリー」(原題・暗闇のスキャナー)など多数の作品が映画化される。1983年には、SF作品を対象としたフィリップ・K・ディック記念賞が創設される。

(「TSUTAYAフィリップ・K・ディック のプロフィール」より引用)

 映画・映像原作としてアメリカで大人気のSF小説家です。直接的な原作でなくても、「マトリックス」、「インセプション」、「PSYCHO-PASS」といった、後の人気作品に多大な影響を与えた作家です。

 

 PKDは長篇に人気作品が多いですが、デビュー当時は短篇が中心でした。映像化された短篇も多く、「アジャストメント」、「にせもの」、「トータル・リコール」、「マイノリティ・リポート」、「ペイチェック」、「ゴールデン・マン」、「変種第二号」が原作に当たります。

 哲学的な物語もあれば、政治や宗教に踏み込む内容、幻想的なおとぎ話もの、ワンアイデア・ストーリー、バカSFなど、それぞれの短篇は独自の内容を含んでいます。

 

 では、各短篇傑作選の紹介に移ります。

 

アジャストメント

ハヤカワ文庫SF1863 2012年7月

 世界のすべてを陰でコントロールする組織の存在を知ってしまった男は!? マット・デイモン主演の同名映画の原作をはじめ、デビュー作「ウーブ身重く横たわる」、初期の代表作「にせもの」(映画化名『クローン』)から、中期・後期の傑作。さらに1972年執筆の幻の短篇「さよなら、ヴィンセント」を初収録。ディックが生涯にわたって発表した短篇に、エッセイ「人間とアンドロイドと機械」を加えた全13篇を収録する傑作選

(「BOOK」データベースより引用)

 オススメは「くずれてしまえ」です。文明が崩壊した未来で、遺物のコピーが劣化する中で、どう行動すべきかが描かれます。「ものづくり」が好きな人にはぜひ読んでもらいたい一篇です。

 ちなみに「PKD総選挙」によると、「ウーブ身重く横たわる」が12位(短篇のみなら2位)にランクインしています。また「にせもの」も人気が高いようです。

 

トータル・リコール 

ハヤカワ文庫SF1929 2013年11月

 夜ごと火星に行く夢を見ていたクウェールは、念願の火星旅行を実現しようと、リコール社を訪れるが……。現実と非現実の境界を描いた映画化原作「トータル・リコール」、犯罪予知が可能になった未来を描いたサスペンス「マイノリティ・リポート」(スピルバー グ映画化原作)をはじめ、1953年発表の本邦初訳作「ミスター・スペースシップ」に、「非(ナル)O」「フード・メーカー」の短篇集初収録作ほか、全10篇を収録した傑作選

(「BOOK」データベースより引用) 

トータル・リコール」と「マイノリティ・リポート」はPKD原作映画の中でも有名な部類に入るでしょうが、小説と映画では、はっきりいって内容が全然違います。その相違を比べてみるのが1番面白く読める方法だと思います。

 

変数人間

変数人間 (ハヤカワ文庫SF)

変数人間 (ハヤカワ文庫SF)

 

ハヤカワ文庫SF1929 2013年11月

 すべてが予測可能になった未来社会、時の流れを超えてやって来た謎の男コールは、唯一の不確定要素だった……波瀾万丈のアクションSF中篇の表題作、奇妙なゲームに明け暮れる地下シェルターに暮らす人々を描く中期の傑作「パーキー・パットの日々」、同名映画原作のSFアクション「ペイチェック」をはじめ、短篇集初収録の掌篇「猫と宇宙船」ほか、ディック得意の超能力アクション&サスペンス全10篇を収録した傑作選。

(「BOOK」データベースより引用)

「パーキー・パットの日々」も地表に住めなくなった人々を描いたポストアポカリプスものですが、地下で「パーキー・パット」という人形ゲームに熱中していて、一見するとそれほど悪くない生活をしています。人生の後退は外側ではなく内側から起こるという、皮肉たっぷりの内容になっています。

 そして「PKD総選挙」では「パーキー・パットの日々」が11位であり、これは短篇のみに絞れば堂々の1位です。

 

変種第二号

ハヤカワ文庫SF1950 2014年3月

  • 「たそがれの朝食」 Breakfast at Twilight /浅倉久志
  • 「ゴールデン・マン」 The Golden Man /若島正
  • 「安定社会」 Stability /浅倉久志
  • 「戦利船」 Prize Ship /大森望
  • 「火星潜入」 The Crystal Crypt /浅倉久志
  • 「歴戦の勇士」 War Veteran /浅倉久志
  • 「奉仕するもの」 To Serve the Master /浅倉久志
  • 「ジョンの世界」 Jon’s World /浅倉久志
  • 「変種第二号」 Second Variety /若島正
  • 編者あとがき/大森望

 米ソの全面戦争により地球全土は荒廃、わずかに残るのは戦い続ける両軍の兵士だけとなった世界。米軍が投入した“新兵器”によって戦局は大きな転換点を迎えていた……。「スクリーマーズ」のタイトルで映画化されたディック短篇中屈指の傑作である表題作、特殊能力を持った黄金の青年を描く「ゴールデン・マン」(映画化名「NEXT-ネクスト-」)、本邦初訳短篇「戦利船」ほか、戦争をテーマにした全9篇を収録する傑作選

(「BOOK」データベースより引用)

「変種第二号」は人間とロボットの入り交じる戦場に、人か機械かの見分けが付かないアンドロイドが紛れ込んでいることを知らされる、という設定です。人と機械の境目を探る、とうテーマは『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』と共通していますが、「変種第二号」はより暴力とサスペンスに満ちています。

 この「変種第二号」が「PKD総選挙」では14位(短篇のみで3位)です。

 

小さな黒い箱 

ハヤカワ文庫SF1967 2014年7月

  • 「小さな黒い箱」 The Little Black Box /浅倉久志
  • 「輪廻の車」 The Turning Wheel /浅倉久志
  • 「ラウタヴァーラ事件」 Rautavaara’s Case /大森望
  • 「待機員」 Stand-By /大森望
  • 「ラグランド・パークをどうする?」 What’ll We Do with Ragland Park? /大森望
  • 「聖なる争い」 Holy Quarrel /浅倉久志
  • 「運のないゲーム」 A Game of Unchance /浅倉久志
  • 「傍観者」 The Chromium Fence /浅倉久志
  • 「ジェイムズ・P・クロウ」 James P. Crow /浅倉久志
  • 「水蜘蛛計画」 Waterspider /浅倉久志
  • 「時間飛行士へのささやかな贈物」 A Little Something for Us Tempunauts /浅倉久志
  • 編者あとがき/大森望

 謎の組織によって供給されるその金属の黒い箱は、別の場所の別人の思考へとつながっていた…。『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』原型短篇である表題作、タイムトラベルをテーマにした後期の傑作「時間飛行士へのささやかな贈物」、近未来アメリカを描く政治風刺連作「待機員」「ラグランド・パークをどうする?」、書籍初収録作「ラウタヴァーラ事件」をはじめ、政治/未来社会/宗教をテーマにした全11篇を収録。

(「BOOK」データベースより引用)

「小さな黒い箱」は『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』の原型とされていますが、むしろ『アンドロイド』には無い要素の方がたくさんあります。短篇という紙幅上の制約もありますが、背景として機能するだけで埋没する部分もあるので、それほど気を張らずに読み進めるのがいいでしょう。

 

人間以前

ハヤカワ文庫SF1981 2014年11月

  • 「地図にない町」 The Commuter /大森望
  • 「妖精の王」 The King of the Elves /浅倉久志
  • 「この卑しい地上に」 Upon the Dull Earth /浅倉久志
  • 「欠陥ビーバー」 Cadbury, the Beaver Who Lacked /浅倉久志
  • 「不法侵入者」 The Cosmic Poachers /大森望
  • 「宇宙の死者」 What the Dead Men Say /浅倉久志
  • 「父さんもどき」 The Father-thing /大森望
  • 「新世代」 Progeny浅倉久志
  • 「ナニー」 Nanny /浅倉久志
  • 「フォスター、おまえはもう死んでるぞ」 Foster, You’re Dead /若島正
  • 「人間以前」 The Pre-Persons /若島正
  • 「シビュラの目」 The Eye of the Sybil /浅倉久志
  • ハーラン・エリスン編『危険なヴィジョン』向きの、すべての物語の終わりとなる物語」 The Story to End All Stories for Harlan Ellison’s Anthology Dangerous Visions /大森望 訳(※「編者あとがき」の中で全文引用)
  • 編者あとがき/大森望

 人間と認められるのは12歳以上、12歳未満の子供は人間と認められず、狩り立てられてしまう…衝撃のディストピアを描いた表題作を、新訳で収録。長篇『ユービック』と同一設定の中篇「宇宙の死者」、ディック短篇の代表作として知られる現実崩壊SF「地図にない町」(新訳)、侵略SF「父さんもどき」、書籍初収録作「不法侵入者」、晩年の異色作「シビュラの目」ほか、幻想系/子供テーマSF全12篇を収録する傑作選

(「BOOK」データベースより引用)

 表題作の「人間以前」はテーマとしては社会派SFですが、「12歳を過ぎると魂がある」という宣言によって設定が作られています。法律国家という大きな系から、魂という個々の系に物語がシフトする手法は圧巻です。

「PKD総選挙」では「人間以前」が16位(短篇のみで4位)に位置しています。また「この卑しい地上に」もランクインしています。

 

 2015年には『高い城の男』がAmazonにてテレビドラマ化され(日本での配信は未定)、2017年には『ブレードランナー』の続編が公開予定です。

 PKDワールドはまだまだ留まることを知りません。次の映画原作はどの小説になるでしょうか? その可能性は短篇にもあると思います。フィリップ・K・ディックの世界観を深いところから理解したい人には、ぜひ短篇集を手にとってもらいたいです。

 

参考資料

http://pkd.jpn.org/