AYUTANINATUYA

脱サラ・アラサー大学院生。日記と、趣味のゲーム・書籍・漫画などのサブカルを発信してます。

漫画『四月は君の嘘』でオマージュ/小説『いちご同盟』感想

 

 三田誠広による小説『いちご同盟』を読み終えまして、感想を綴ります。

 

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いちご同盟・あらすじ

 中学三年生の良一は、同級生の野球部のエース・徹也を通じて、重症の腫瘍で入院中の少女・直美を知る。徹也は対抗試合に全力を尽くして直美を力づけ、良一もよい話し相手になって彼女を慰める。ある日、直美が突然良一に言った。「あたしと、心中しない?」ガラス細工のように繊細な少年の日の恋愛と友情、生と死をリリカルに描いた長篇。
(「BOOK」データベースより引用)

 

 1991年初版の、青春小説の金字塔です。自殺に憧れつつもピアニストになろうか悩む北沢良一は、ふとしたきっかけで、野球部のエースであり思いやりのある羽根木徹也とともに入院中の上原直美のもとを訪れます。そこから、道に迷いつつも将来に向かってゆく北沢、プロ野球選手として期待されながらも自らの不甲斐なさに自信がない徹也、夢を見つつも死の運命を受け入れてゆく直美、という3人を中心にして、青春の出会いと別れ、そして約束が描かれます。

 

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 なぜ今さら『いちご同盟』なのかというと、本作が漫画『四月は君の嘘』でオマージュされたからです。Google検索すると、キーワードとして3つ目に上がってきます。
四月は君の嘘』は、ピアノが弾けなくなった天才ピアニストと、天真爛漫なヴァイオリニストの物語であり、『いちご同盟』とは人物設定、周辺環境、展開など似た事柄が多く、そしてさらには『四月は君の嘘』の作中で『いちご同盟』を取り上げる内容になっています。

 とはいえ『いちご同盟』と『四月は君の嘘』との関係は、描かれた時代も違いますし、媒体も異なりますし、細部も変わっていることが多いです。
 そんな中で『いちご同盟』の特徴といえば、まずセリフが古いです。

「あなたって、やさしいのね」
「そうよ。わかるわ。あなたの考えてること、全部わかっちゃうわ」
「あら、あいつのどこがやさしいの」

 これらはすべてヒロイン・直美のセリフであり、女性的な表現が用いられています。
(とてもデリケートな話題になってしまいますが)『いちご同盟』はジェンダー的な内容を多分に含んでいます。それと「男と男の約束」でなくてもいいと思います。小説であり、絵がないので、誰のセリフなのかを文字で表さないといけないところを、いわゆる男言葉・女言葉で乗り越えています。なので会話は分かりやすいものの、今となっては違和感の残るシーンが多くありました。

 その代わり、主人公・北沢の一人称には訴求力があります。野球、音楽、自殺願望、勉強、家族、将来と、様々なことが彼の口から語られるわけですが、それらの”まとまりつつ揺れている”絶妙な感覚が、中学生離れしていて、物語を支える原動力になっています。野球や音楽に興味がなくたって、生死や将来が遠い存在だと思っていたって、読めばすぐに自分のことのように感じてしまいます。

 あとは90年代の小説にありがちな、10代向けの内容なのだけれども、その中に登場するキャラクターに可愛さがほとんどなくて、導き手の役割が重く課されているのが際立っていました。荒削りではありますが、2010年代のライト文芸と比べると話に真実味があって、こちらもまた魅力的に読めるのではないかと思います。

 名作が後の作品によってさらなる意味づけをされると、以前読んだ人、今味わっている人、これから手に取る人にまた別の感想が生まれるはずです。青春小説なので、10代の男女にオススメですが、瑞々しさを思い出したい20代にも読んでもらいたいです。

 

いちご同盟 (集英社文庫)

いちご同盟 (集英社文庫)