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AYUTANINATUYA

20代の工場作業員だってこんなことを考えている

職業に対する一種の“高位性”/映画『孤独の暗殺者 スナイパー』感想

Movie

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 映画『孤独の暗殺者 スナイパー』(2014)を見まして、感想を綴ります。

 

孤独の暗殺者 スナイパー

 愛する妻子のため、射撃のチャンピオンの腕前を持つ男は孤独なプロの暗殺者へと生まれ変わる。「涙するまで、生きる」のR・カテブが渋い男の魅力を放つサスペンスドラマ。

 射撃の名手として大会で何度も優勝経験を持つ一方、新居の建設や病気で倒れた父の世話などで生活費を捻出するのに追われ、苦しい日々を送る主人公。そこへ彼の射撃の腕前を見込んだ男が、金になる暗殺の仕事を依頼してきたことから、ついに主人公は、プロのヒットマンとして生きることを決意することに。難しい決断を迫られる寡黙な主人公をカテブが渋く好演するほか、「引き裂かれた女」のL・サニエ、「ニキータ」のT・カリョら、共演陣も豪華で充実。監督は、これが長編デビュー作となる新鋭のF・グリヴォワ。

WOWOWオンライン・番組紹介/解説より引用)

 地味で暗い映画です。フィルムの前半は生活に苦しむ主人公が暗殺者になるまでの過程を映し、後半は暗殺者になったことによる生活の変化や罪の意識に悩む姿が描かれます。

 でも暗殺ものにありがちな血の気の多さ、計画の複雑さはほとんど排除されており、説明も会話も少なく、行動で人物を静かに描写する雰囲気がとても気に入りました。

 特に主人公のヴァンサンは、いわゆる大黒柱の役割を担っており(普段は電気工事関係の仕事に従事している?)、口数も少なく、趣味の射撃に関しても多くを語らないなど、日本人が共感しやすい人物になっていると思います。

 

 よくよく考えると、暗殺者という職業に対する一種の“高位性”を抱いているところをうまく突いた内容だと思います。「暗殺者はそうなるべき素質や経歴をもってなるべきだ」という思い込みを逆手に取り、ふつうの人が暗殺者になってしまう意外性を表しています。

 見終えた後は、さすがに暗殺者に対して同情は持ちませんでしたが、例えば銀行の受付係とか、職業訓練校の講師とか、面接の試験官とか、比較的周りから敬意を抱かれる職業人も、じつは裏でお金に困っていたり、他の職種の修行をしていたり、他社への転職面接を受けていたりするのかな、と想像しました。

 

 細かいシーンについて、父と娘で銃を眺めるシーンや、主人公が弾薬詰めの作業をするシーンは絵としてしっかり決まっていて美しかったです。音響に関しても、発砲音が不快にならない程度にリアルっぽく加工されて響くのがよかったです。

 

 少し残念なところとしては、後半はふつうの展開であり、むしろ主人公が中年にもなって暗殺の覚悟ができていないことにやや苛立ちを覚えました。あとは自分で選んだ暗殺の仕事なのに、それに暗雲が立ち込めてきたことに対して被害者らしく振る舞うのがどうも共感できませんでした。結末も、観客にゆだねるといえば聞こえはいいのですが、どこか尻切れ終わりの感じが抜けませんでした。

 

 同じスナイパーものでも『アメリカン・スナイパー』や『ロシアン・スナイパー』とは違う方向から狙撃手を描いており、見る側がそれを事前に了承しておく、または展開の早い段階で理解することが大切だと思います。『孤独の暗殺者』に正義とか悪とかそういった大きな話はせず、「もしかしたら隣の人は暗殺者かもしれない」くらいのプリミティヴな物語です。サスペンス重視のドラマが見たい人と、単純に、主人公のヴァンサンのように苦しい現状の方にオススメです。