西尾維新による小説『撫物語』を読み終えまして、その感想を綴ります。
小説『撫物語』あらすじ
かつて神様だった少女・千石撫子。夢を追い、現実に追いつめられる彼女は、式神童女・斧乃木余接の力を借りて、分身をつくることに成功する。しかし4人の「撫子」達は、ばらばらに逃げ出してしまい…? これぞ現代の怪異! 怪異! 怪異! 自分さえ、手に負えないのが青春だ。
(「BOOK」データベースより引用)
主に『化物語』・『偽物語』・『囮物語』・『恋物語』に登場したヒロイン・千石撫子のエピローグ・ストーリーです。今回は撫子の分身を作ろうとしたところで逃げ出してしまい、追いかける過程を長編で描いています。
撫子は4体の式神を作るわけですが、その分身それぞれが撫子自身の過去に対応しています。
おと撫子:『化物語』;前髪で目元を隠していた最初期の千石撫子
媚び撫子:『偽物語』;前髪をカチューシャで上げたセクシーな千石撫子
そして彼女らと『撫物語』の主人公である“今撫子”は対峙します。それは彼女自身の過去に向き合うことを意味します。物語の都合上、今撫子は式神との戦いに勝利してゆくわけですが、その場面できっちり(精神的な)ダメージを受けます、そういったスッキリしない展開に『傷物語』のような、<物語>シリーズの原点回帰的な雰囲気をとても感じ取りました。
千石撫子は漫画家志望ですが、作中では親から「中学校を卒業したら働きに出なさい」と言われ、理想と現実のギャップに苦しみます。そしてその設定がクリエイターになることの苦しみを表現しています。夢を追えば実生活が疎かになり、生活を安定させようとすれば夢は諦めるしかない、そういった二者択一の理不尽さを伝えてきます。これは作り手側だけの問題ではなく、(私たち)受け取る側にも共感できることだと思います。創作世界からいつかは出て行かなければならない、でも現実世界は厳しく、空想の中でじっとしていたい、という葛藤にもリンクしている気がします。
その他の印象として、“捜しもの”なので探偵小説と読むこともできます。斧乃木余接ちゃんが見事なワトソン役を演じます。それと“分身もの”なので、アニメ化して撫子(C.V.花澤香菜)が色々な声色で喋るのを想像するだけで楽しいです。
『化物語』はほぼ1ヶ月の間に事件が立て続けに起こっていました。なのでその頃には卒業式とか、その後に物語があることなんて想像していなかった、想像することを無意識に拒否していました。しかし<物語>シリーズもオフシーズンとなり、今回は千石撫子が時間の流れと向き合い、彼女自身と向き合い、そして思い出の中から飛び出してゆきました。
小説『化物語』刊行は2006年、アニメ『化物語』放送は2009年であり、当時からのファンは記憶がほとんど曖昧になっているかもしれません。しかし『撫物語』は、そこからエッセンスを抽出して青春の楽しさや痛さを教えてくれます。