AYUTANINATUYA

20代の工場作業員だってこんなことを考えている

想像力の限界を突き抜けた空模様/映画『アップサイドダウン 重力の恋人』感想

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 映画『アップサイドダウン 重力の恋人』(2012)を見まして、感想を綴ろうかと思います。

 

 まず当映画のあらすじについて。

 富裕層が暮らす星と貧困層が暮らす星が、上下で接近するように引き合っている世界。下の星で貧しい暮らしを送っていたアダム(ジム・スタージェス)は、とある山頂で上の星の住人であるエデン(キルステン・ダンスト)と出会って恋に落ちる。ロープを使って彼女を自分の世界に引き下ろそうとするアダムだったが、星の境を監視する警備隊に発見されてエデンは上の星へと落下してしまう。それから10年後、エデンは死んだと信じ込んでいたアダムだったが、彼女が生きていることを知って再会を誓う。

シネマトゥデイより引用)

 フランスとカナダの共同制作による恋愛SFです。「アップサイドダウン」は「逆さま」を意味して、作中ではカフェのメニュー「逆さカクテル」を意味します。互いに重力が反転した2つの星を舞台に、王道的ボーイ・ミーツ・ガールが描かれます。設定の近い作品に『サカサマのパテマ』(2013)があります。

 

 この映画を見るには、まずその世界設定に寛容になる必要があります。よくよく考えれば、重力の逆さまな2つの星が、互いの山の山頂同士だと10mもない程に接近していたら星同士が衝突してしまいます。また仮に衝突しなくても、それら星々から建つタワーを接合するのは不可能な気がします。そしてどちらの重力に属するのかはその発生によるなど、他にも細かな矛盾がたくさんありますが、それらを注意しない方が楽しめます。ハードSFからみれば許されないことでしょうが、ソフトSF、またはファンタジーとして捉えると良いかと思います。

 なぜなら、この映画の一番の魅力は映像美だからです。想像力の限界を突き抜けた空模様が本当に綺麗です。

 

 ストーリーはごくシンプルです。惚れた男が女を追いかけるという内容です。これは実にありがたいことで、なぜなら見ている中で見る側は舞台の中に“重心”を求めてしまいがちであり、それが特殊なこの映画では場面の情報処理にとても負荷がかかります。だからストーリーは分かりやすい方が、内容の重さとしてちょうど良いバランスになっています。

 

 惜しいところは、やっぱり設定面にたくさんありまして、リスト化しますと、

・二重引力の仕組みが謎

・空気や水はどう巡っているのか謎

・太陽系である必要がない

・逆物質がなぜ燃えるのか謎

格差社会だが、それがどう成立したか謎

格差社会をどう維持しているのか謎

・上の世界の住人も下の世界では不自由な様子が謎

・下の世界の住人同士でも抗争しているのが謎

・上の住人の考えの違いを匂わせるセリフが少ない

格差社会によくあるプロパガンダがない

といったことが挙げられます。それと主人公以外の登場人物の魅力がやや薄いのも残念でした。

 

 それと、この映画はハッピーエンドで終わるのですが、個人的には主人公とヒロインが結ばれない結末も良かったのではないかと思います。終盤で主人公はヒロインと上の世界から引き離され、おそらく以前よりも関係の悪くなった下の世界で生活を再開するのですが、「知らないの? 上の世界は楽園だ」と言う子どもに対し、「そうは思わないね」「リッチかもしれないけれど、楽園なんかじゃない」と返します。そのシーンは背景の美しさによる後押しも含めて、真に迫るものがありました。

 

 じつは声優の宮野真守さん(『DEATH NOTE夜神月、『STAR DRIVER 輝きのタクト』ツナシ・タクトなど)が主人公・アダムの吹き替えを担当しています。その演技は、純粋な青年像にぴったりでした。なので宮野真守さんが好きな人、またアニメ好きだけれど洋画はあまり見ない人に勧めたいです。そして、大きな障壁を抱えているカップルにはぜひ見てもらいたいです。