AYUTANINATUYA

脱サラ・アラサー大学院生。日記と、趣味のゲーム・書籍・漫画などのサブカルを発信してます。

紙と電子と/小説『新世界より』回想

 

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 先日、貴志祐介による小説『新世界より』を読み終えました。単行本は2008年の発売でSF大賞を受賞し、漫画・アニメのメディアミックスもすでに行われました。近年のホラーSF系における名作です。

 今回の話は『新世界より』を中心とした、その読書媒体についてです。というのも、当作品はkindleをはじめとする電子書籍だと20%ほど安く購入できるのでダウンロードしました。

 

 僕個人の電子書籍に対しての考えを述べておきますと、基本としては紙媒体の方が好みです。これは単純に、紙媒体の環境で育ったので、印刷した文字を読む方がスピードや早くて理解度も深くなることが多く、ならばおおよそ同じ値段なら紙媒体の方を選ぶためです。

 ただ電子媒体もそれほど苦手ではなくて、まずメリットとして価格が紙媒体に比べて割安であることが多いです。また、ちょっとした空き時間にも電子書籍ならスマートフォンを取り出して手軽に読むことができます。片手で事足りるのも好ましい点です。厚みも重さもないので持ち運びや整理が楽です。ただやっぱり、どうも頭に入りづらいといいますか、読後感が薄いというのと、そもそも電子化されていない本があるので、「この本は電子で、この本は紙で」といった感覚の切り替えをするのが面倒に思います。

 “積読”に関しては、紙媒体はもちろん、電子書籍の方がセールなどでクラウドに貯まりがちになるので、その点にはあまり差がないと考えています。

 

 『新世界より』は「電子書籍で手軽に読もう!」と思ってkindleで読み始めたのですが、序盤があまりにも面白くて「紙で深く読まないともったいない」と考え直し、文庫本に持ち替えて読み直しました。今になって思い返すと、著者はホラー作家なので序盤の雰囲気作りに優れているのは当たり前ですし、特にSFは序盤の世界設定をひけらかすことで読者を引き込もうとしてくるので、端的にいって全うな反応でした。

 

 『新世界より』のあらすじについて。

子供たちは、大人になるために「呪力」を手に入れなければならない。一見のどかに見える学校で、子供たちは徹底的に管理されていた。いつわりの共同体が隠しているものとは―。何も知らず育った子供たちに、悪夢が襲いかかる。

(「BOOK」データベースより引用)

 

 『新世界より』の全体的な感想は、SFよりはホラーの要素が強く出ていると思いました。小説の超能力者たちは目で見ることで能力を発動してゆくのですが、反対に、目に見えないものに対しては一段と恐怖心を覚えるのは自然なことです。なのでホラーの演出としてSFが用いられていると感じました。

 それと、ユートピア系のテーマは往々にして内容が難しくなりがちなのですが、ホラー・エロ・グロを取り入れることでエンタメとして昇華しているところが見事でした。対して、設定面では古典的なディストピア小説に軍配が上がると思います。理由としては、超能力やその他の設定を、“それらしい”医学・心理学・文化人類学に頼り切っていて説得力が弱いところと、ダブルスピークのような標語が少ないところに違和感を覚えるからです。ただこれらの点に関しても、怪しげな文体でもってカバーしているところが素晴らしいです。SFの演出としてホラーを取り入れているともいえます。

 

 読書媒体に戻ると、『新世界より』は一つひとつのセンテンスはそれほど大きな意味を持っておらず、一章が終わる、または全編を通した際にその印象がどっと流れ込んでくるタイプです。なので個人的には電子書籍向きの気がします。また単純にページ数が多いので、その重さを感じない電子は適しています。前章からの引用部分も所々あり、そこも電子書籍だとより軽快に読み進むと思います。

 

 今の世の中では様々なモノが転換期を迎えてますが、書籍・電子書籍もその一つです。「phone」の役割をほとんど使用せずにディスプレイをスクロールする人がたくさん居るように、いずれ「なんで書籍っていうの?」と疑問が沸くくらいに元の媒体は失われてゆくと考えます。仕方ないことです。できれば提案として、紙媒体と電子情報を、多少は割高でもいいですからセットで販売してほしいです。そうすれば、このような話をする必要はないですし、この話の意味も果たせるのかなと思います。

 

新世界より(上) (講談社文庫)

新世界より(上) (講談社文庫)

 

 

新世界より(上) (講談社文庫)

新世界より(上) (講談社文庫)