AYUTANINATUYA

脱サラ・アラサー大学院生。日記と、趣味のゲーム・書籍・漫画などのサブカルを発信してます。

木下是雄『理科系の作文技術』

 

猫町倶楽部・名古屋アウトプット勉強会という読書会の課題本で、

木下是雄『理科系の作文技術』を読みました。そしてその内容をまとめてみました。

 

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物理学者で、独自の発想で知られる著者が、理科系の研究者・技術者・学生のために、

論文・レポート・説明書・仕事の手紙の書き方、学会講演のコツを具体的にコーチする。

盛りこむべき内容をどう取捨し、それをどう組み立てるかが勝負だ、と著者は説く。

文のうまさに主眼を置いた従来の文章読本とは一線を劃し、ひたすら「明快・簡潔な表現」

を追求したこの本は、文科系の人たちにも新鮮な刺激を与え、「本当に役に立った」

と絶賛された。

中公新書・内容紹介]

 

タイトル通り、理科系のレポートや論文の作文技術を指導する内容です。

「明快・簡潔な文章とは?」からはじまり、作文前の準備作業、文章の組み立て、

わかりやすく簡潔な表現技術、そして学会講演の要領まで詰め込んであります。

 

本書の感想に入る前に、僕個人の話を始めますと、理系の大学院生です。

卒業論文は書きましたし、学会での発表経験もあります。

一方で、文章を書くことには慣れていまして、文章の組み立ては早い方です。

また文章を書く人にはそうなった動機があるものでして、つまりは好きな作家、

自身の組み立てる文章の元になった作品があることが多いのですが、

僕の場合は西尾維新という、ライトノベル作家の<物語シリーズ>がそれに当たります。

西尾氏の文章は、日本語の修辞関係を存分に活かしたスタイルだと思います。例えば、

 

 神原駿河といえば学校内で知らない生徒が一人もいないほどの抜きん出た有名人であり、

当然ながら僕も何度となく聞いたことがある名前だった。

いや、単純に有名人というならば、僕のクラスメイトであるところの羽川翼

戦場ヶ原ひたぎだって、ひょっとしたら彼女に引けを取らないのかもしれないが、

しかしそれは、三年生という僕達の属する学年に限っての話である。

そう、神原駿河は僕や羽川翼や戦場ヶ原ひたぎよりも一つ下、二年生でありながらにして、

三年生の、それもそういう噂めいたことにはかなり疎い方である僕のいる地点にまで届く

ほどの、並外れた名声を得ているということなのだ。

これは普通に考えて、ちょっとないことである。

若いのに大したものだなんて大物ぶってお道化るにしても、

ちょっとばかり言葉が真に迫りすぎているというべきだろう。

化物語・上](記事の横幅の都合上、改行を勝手に加えてある)

 

と、冗長でありかつ段落を最後まで読まなければ意味が分からないのですが、

単語や一文の係り方に隙がなく、結果として余すことなく描写する文章だと思います。

そして西尾氏のスタイルを僕は理科系の作文にも転用しています。

なので課題本の中に搭乗する「逆茂木型の文章」を書いてしまいがちなのですが、

読み手の負担が大きいので、先に要点を述べ、くどくど説明して最後に再び要点を述べる

「双括式」の構造にするようにしています。

(逆茂木型の文章;その内容や相互の関連がパラグラフ全体を読んだ後ではじめてわかる

――極端な場合には文章ぜんぶを読み終わってはじめてわかる――ような書き方)

なので課題本の挙げるところの「重点先行主義」はあまり好きではありません。

時間を節約するために結論が論文の冒頭やパラグラフに位置するのは理解できますが、

意外にも真に重要な事柄は後々の詳細に書かれている場合があり、

重点先行主義ではこの読み落としを助長する可能性があります。

またレゲット式な一つの幹から多数の枝に分かれてゆく構造の文章も、

「幹それ自体が正しい」という思い込みから出発して脇道に外れることを許さない、

要するに非論理的な結論を導きやすくなるので良くないと思います。

 

そもそも課題本は論理至上主義といいますか、ある一つの論理があり、

これを“論理に沿うかたち”に記述することで内容を他人に伝え、

読み手が“明快・簡潔なように”受け取ることを強調しすぎています。

岩塩の味は主成分である塩化ナトリウムではなく少量のミネラルが決定づけるように、

論理は確かに重要ではありますが、より重要なのは論理に沿わない部分だと思います。

おそらくは実際にあるだろう辻褄の合わない事柄についての配慮が、

今回の課題本では不足していると思います。

 

もちろん、<はっきり言い切る>ための心得・事実と意見の区別・格の正しい文などの

外科的な作文技術はとても参考になりました。

ただ前述の通り、内科的な考え方が自分には合いませんでした。

 

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この文章は「理科系」ではないので『理科系の作文技術』の内容を踏まえていません。

 

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読書会では様々な世代や参加歴の男女が集まって感想を語り合いました。

その中でもパラグラフ(段落)の連結について議論しました。

パラグラフとは「内容的に連結されたいくつかの文の集まりで、全体として、

ある一つのトピック(小主題)についてある一つのこと(考え)を言う

(記述する、明言する、主張する)ものである」とした上で、

その考えに関係のない文や、反する内容をもった文を書き込んではいけない、

つまりは脇道や豆知識のような話は加えてはいけないと本書は指摘しています。

しかし時として、本筋の流れの中に余談が入っていると、やや読みにくくなるものの、

「本筋の話が広がりやすくなったり、理解しやすくなったりするのではないか?」

「多少の回り道は味があって良いじゃないか」という意見もありました。

 

また、重点先行主義について、どんなに内容の優れた文章でも、

おおよその人はその最初の数行で中身を推し量ってしまうので、

力量のある人こそ出だしをしっかりすべきだ、という意見も印象に残りました。

 

 

個人的には理系の立場と、書き手からの立場の板挟みで読みづらかったのですが、

読書会ではまったく違う観点から自分には思いつかない意見がいっぱい出てきたので、

とても身になる会になりました。

本書は「理系」が前面に押し出されていますが、読み手のそれぞれの立場から

想像力を働かせながら読み進めると、より有効な一冊になるのではないかと思います。

 

理科系の作文技術 (中公新書 (624))

理科系の作文技術 (中公新書 (624))