できるだけ短い文章を書くのは難しいが、どこまでも続く文章を書くことも難しい。
そもそも文章と定めるためには必然的に書き始めと書き終わりが存在するわけだから、
その両方を持たないものは文章の枠を超えた何かということである。
しかし逆説的に、始まりと終わりと持つものは文章として収めることができる。
つまるところ人間には生があり、死があり、始まりがあり、終わりがあり、
そのすべてを集約した文章が存在してもおかしくはないのである。
できればそれを、欠けることなく書けることを望む。
暇があればMicrosoft Office Excelなどで何の意味もないものを作る癖がありまして、
突如とした思いつきで、円周率の偶奇グラフを作ってみました。
そもそも円周率というのは円の周長の直径に対する比率として定義される数学定数で
ありまして、通常、ギリシア文字π(パイ)で表されます。数学をはじめ、
物理学、工学といった様々な科学分野に出現し、最も重量な数学定義とも言われます。
π=3.14159 26535 89793 23846 26433 83279 50288 …
ここで気になったのが小数部分の規則性でありまして、πの小数部分の並びは0~9の
数字の完全なランダムかどうかは分かっていないらしいのです。
つまりは例えば8の出現頻度が多く、6の出現頻度が少ないのかしれません。
また、ある桁からは“ばったりと”3が出現しなくなるのかもしれません。
ところで数学から離れますと、アカシックレコードという考え方がありまして、
これは大体のところ人類の総ての歴史そのものでありまして、
例えば「特殊相対性理論」などの法則、「ロミオとジュリエット」などの記録、
「20XX年に異常気象が起こる」などの予言を総てまとめたものを示します。
そういうものが存在すると仮定した場合、相当に大きな情報量だと考えられまして、
つまりは無限にどこまでも続く文章だと予想することができます。
円周率はこのアカシックレコードだと考えられ、この数列を果てしなく追い求め、
その歴史の一部を紐解こうという試みもあるそうです。
特別に事が上手く運ばなくても、円周率の数字並びが明らかになれば、
生年月日に電話番号、預金残高を円周率から参照し、
例えば1540年1月28日生まれは「円周率第P桁からP+7桁」と定義され、
世の中の情報技術はもっとスマートになるかもしれません。
ということで興味を持った円周率をテーマにExcelのグラフを作ろうと思い立ちまして、
ですが円周率の新しい証明を成すアイデアも能力も無かったものですから、
円周率の桁の偶奇を調べ、その性質を可視化することにチャレンジしてみました。
まずは偶奇の数がどのように出現しているのかを調べるために、
http://www.geocities.jp/f9305710/PAI1000000.htmlに記載されているデータを用いまして
小数第百万位以上の累積奇数頻度を演算した結果は以下のグラフのようになります。
グラフ1 小数第百万位以上の累積奇数頻度
例えば円周率における小数第5位以上は3.14159となっており、
これらの桁のうち奇数は4つ、偶数は1つなので、累積奇数頻度を3としました。
また小数第百万位以上では奇数{500252}、偶数{499748}の数がありました。
さらにグラフの解釈としては、グラフが右肩上がりの区間では奇数が比較的多く現れ、
対して右肩下がりの区間では偶数が比較的多く現れていることを示しています。
ところで、円周率のどこにより価値があるかと問えば、より桁数が大きい値なのだが、
それは“数学的な”価値であって、文化的に価値のあるものは、桁数の小さな部分だろう。
なぜなら、文章というものは「出だしが肝心」なためである。
何のための文章か、どう語るか、誰へ送るのか、おおよそを決定するのは冒頭である。
なので円周率を文章として捉えるならば、桁数の小さな部分に注目するべきである。
もっとも、“桁数の小さな部分”とは具体的に何桁程度なのか、という疑問は残る。
参考としてヘブライ語の一文字は1~3つの数字で表されるようであるから、
ある程度の意味を持つ文章を1つ得るには円周率が千桁あればいいだろう。
グラフ2 小数第1000位以上の累積奇数頻度
プロセッサの関係上、ここからは円周率における小数第1000位以上に注目し、
まずは現れている数字の偏りを調べ、小数第1000位以上の積算数頻度は
以下のグラフのようになります。
グラフ3 小数第1000位以上の累積数頻度
グラフ3より0,1,2,...,9のどの数字もほぼ一様の頻度で現れることが確認できます。
さらに詳しく数字の偏りを調べるため、小数第X位(X=30,100,1000)以上での
積算数頻度は以下のグラフのようになります。
グラフ4 小数第30位以上の累積数頻度
グラフ5 小数第100位以上の累積数頻度
グラフ6 小数第1000位以上の累積数頻度
グラフ7 {最大頻出数} / {最小頻出数}
円周率における小数部分に0は第32位に初めて現れるので偶数は少なく、
ゆえに桁数の小さい部分では奇数が頻出しやすいことが考えられます。
しかし桁数が大きくなるにつれて{最大頻出数}/{最小頻出数}は小さくなり、
つまりはその数字もほぼ一様の頻度で現れることが確認できます。
次に円周率のどの区間で奇数または偶数がより頻出しているかを調べるために、
区間奇数頻度:=(小数第X位における累積奇数頻度)-(小数第X-10位における累積奇数頻度)
を導入します。例えば円周率における小数第80~90位は
98628034825となっており9より下の小数位では偶数が8つ、奇数が2つなので、
この区間内で累積奇数頻度は-6減少した、つまり区間奇数頻度は-6となります。
小数第1000位以上における区間奇数頻度は以下のグラフのようになります。
グラフ8 区間奇数頻度(Δ=10,線グラフ)
区間数の定義上、区間奇数頻度は偶数の値のみを取ります。
グラフXをマーカーのみに変更した結果は以下のグラフのようになります。
つまりは円周率の桁の偶奇は10桁の区間数にある程度のばらつきで現れることが
確認できます。
グラフ9 区間奇数頻度(Δ=10,マーカーグラフ)
次に円周率の桁の偶奇のばらつき具合を調べるために、
区間奇数頻度の区間数Δを6または2にした結果が以下のグラフのようになります。
グラフ10 区間奇数頻度(Δ=6,マーカーグラフ)
グラフ11 区間奇数頻度(Δ=2,線グラフ)
グラフ11におけるバーコード状の-2~0の白地の部分は偶数が連続しない区間、
0~2の白地の部分は奇数が連続しない区間の存在を示しています。
グラフ10より円周率の桁の偶記は6桁の区間数にはある程度のばらつきで現れますが、
2桁の区間数では極端に奇数が連続しない区間や偶数が連続しない区間があります。
中でも小数第250位から第281位(1 4564856692 3460348610 4543266482 1)
にかけては一度も奇数が連続しないことが確認できます。
しかしグラフ12かつグラフ13からそれほど偶数は連続して現れておらず、
つまりは奇数のあとで極端に偶数が多く現れていることが確認できます。
グラフ12 小数第250~280位における区間奇数頻度(Δ=6,マーカーグラフ)
グラフ13 小数第250~280位における区間奇数頻度(Δ=2,マーカーグラフ)
次に小数第250~280位における数字の偏りについて調べ、
上記の桁位における値は以下のグラフのようになります。
グラフ14 小数第250~280位における値
グラフ14より0,1,2,7,9が少なく、4,5,6が多いことが確認できます。
しかし、奇数のあとで極端に偶数が多く現れている桁位において、
小数第250~280位における傾向とは一致しませんでした。
つまり、円周率の桁の偶奇には何かしらの偏りはあるが、
その法則性はよく分からない、ということです。
これまでのグラフによって、円周率の法則性の一端を掴みかけていると
思い込んでしまうのですが、残念ながらこれ以上のグラフ作成には
より数学的な解析マクロを組むスキルや、それを実行し得るパーソナル・コンピュータが
必要であり、自分にはそのどちらも持ち合わせておらず、
また演算が正しく行われていない可能性もあるので
どなたかにご助力を願おうかと考えているところであります。
できるだけ簡素な文章を書くのは難しいが、どこまでも複雑な文章を書くことも難しい。
そもそも文章と定めるためには一応の形としての記号や法則に従う必要があり、
その両方を持たないものは文章の域から外れた何かということである。
しかし一方で、多かれ少なかれ記号や法則を持つものは文章として落とし込むことができ、
結局のところ人間には生があり、死があり、記号があり、法則があり、
そのすべてを理解した文章が存在してもおかしくはないのである。
できればそれを、欠けることなく書けることを望むけれど、その枠の外も望みたいよね。